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13-3.

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「それじゃ……そろそろ行きます」
「元気でね。スノードロップ、そっちでも放送するだろうから見てよ」
「絶対に見ます! 碧さんも、元気で」

 ペコリと頭を下げると、碧さんが手を振ってくれた。俺が見えなくなるまで、大きく手を振って……

 物陰に身を隠し、少し間をおいてからそっと覗く。まだ碧さんの姿があった。じっとこちらを見て、それから夜空を見上げた。
 そして、階段を下りて行き、その姿は見えなくなった。

「さようなら、碧さん」

 小さく呟くと、俺は再び駅のデッキへ出た。
 夜空には青くはないブルームーンが輝いている。碧さんも、きっとこれを見上げていたんだろう。

 さあ、ブルームーン。俺を13年後に連れて帰ってくれ。

 …………。

 何も起きない。
 
 目を閉じて両手を広げ、それっぽく待って見ても何も起きない。
 心の中で「ブルームーンの力よ! 我を未来へ運ぶのだ!」と呟いてみたところで、何も起きない。

 どうしよう。無駄にウロウロと動き続けてしまう。これでは不審者だ。
 
 そもそもブルームーンで帰れるというのは完全な推測だ。なんとなく思い込んでいただけで、確証はなかった。

 まさかあんな涙の別れをして「やっぱり帰るの辞めました」と碧さんの元へは戻れない。
 どうにかして、こっちの世界で生きて行くしかないのか!?

 いやでも、スノードロップの続編は見たい。新人の碧さんも最高だったけど、2023年の碧さんの活躍も見たい。

「どうにかしてくれブルーム――あああッッ!!?」

 ズルっと足が滑り、後ろにひっくり返って身体が打ち付けられる。
 上ばかり見ていたから足が階段に向かっていたと気づかなかった!

 階段を転げ落ちていく俺の頭上に、月が青く輝いていた。

 これは……あのときと……同じ……?





「大丈夫ですかー?」

 誰かの声が頭上から聞こえてくる。
 全身の痛みに耐えながら、ゆっくり目を開けた。

「ゔ……」
 
 俺を覗き込んでいたのは、マスクをした警察官だった。

「階段から落ちたんですね。救急車呼びましょうか?」

「かいだん、から……? っ! 今って何年ですか!?」
「え、い、今ですか? 2023年ですが」

 飛び起きた俺に、たじろぎながら警察官が答えた。

 にせんにじゅうさんねん……2023年!

「2023年! 8月31日ですか!?」
「そ、そうです。頭はハッキリしてるようですね。何かありましたら、声掛けてください」

 そう言って、警察官はドン引きした様子で交番へ戻って行った。

 帰って来たんだ。あの日の夜に。

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