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「それじゃ……そろそろ行きます」
「元気でね。スノードロップ、そっちでも放送するだろうから見てよ」
「絶対に見ます! 碧さんも、元気で」
ペコリと頭を下げると、碧さんが手を振ってくれた。俺が見えなくなるまで、大きく手を振って……
物陰に身を隠し、少し間をおいてからそっと覗く。まだ碧さんの姿があった。じっとこちらを見て、それから夜空を見上げた。
そして、階段を下りて行き、その姿は見えなくなった。
「さようなら、碧さん」
小さく呟くと、俺は再び駅のデッキへ出た。
夜空には青くはないブルームーンが輝いている。碧さんも、きっとこれを見上げていたんだろう。
さあ、ブルームーン。俺を13年後に連れて帰ってくれ。
…………。
何も起きない。
目を閉じて両手を広げ、それっぽく待って見ても何も起きない。
心の中で「ブルームーンの力よ! 我を未来へ運ぶのだ!」と呟いてみたところで、何も起きない。
どうしよう。無駄にウロウロと動き続けてしまう。これでは不審者だ。
そもそもブルームーンで帰れるというのは完全な推測だ。なんとなく思い込んでいただけで、確証はなかった。
まさかあんな涙の別れをして「やっぱり帰るの辞めました」と碧さんの元へは戻れない。
どうにかして、こっちの世界で生きて行くしかないのか!?
いやでも、スノードロップの続編は見たい。新人の碧さんも最高だったけど、2023年の碧さんの活躍も見たい。
「どうにかしてくれブルーム――あああッッ!!?」
ズルっと足が滑り、後ろにひっくり返って身体が打ち付けられる。
上ばかり見ていたから足が階段に向かっていたと気づかなかった!
階段を転げ落ちていく俺の頭上に、月が青く輝いていた。
これは……あのときと……同じ……?
・
・
・
「大丈夫ですかー?」
誰かの声が頭上から聞こえてくる。
全身の痛みに耐えながら、ゆっくり目を開けた。
「ゔ……」
俺を覗き込んでいたのは、マスクをした警察官だった。
「階段から落ちたんですね。救急車呼びましょうか?」
「かいだん、から……? っ! 今って何年ですか!?」
「え、い、今ですか? 2023年ですが」
飛び起きた俺に、たじろぎながら警察官が答えた。
にせんにじゅうさんねん……2023年!
「2023年! 8月31日ですか!?」
「そ、そうです。頭はハッキリしてるようですね。何かありましたら、声掛けてください」
そう言って、警察官はドン引きした様子で交番へ戻って行った。
帰って来たんだ。あの日の夜に。
「元気でね。スノードロップ、そっちでも放送するだろうから見てよ」
「絶対に見ます! 碧さんも、元気で」
ペコリと頭を下げると、碧さんが手を振ってくれた。俺が見えなくなるまで、大きく手を振って……
物陰に身を隠し、少し間をおいてからそっと覗く。まだ碧さんの姿があった。じっとこちらを見て、それから夜空を見上げた。
そして、階段を下りて行き、その姿は見えなくなった。
「さようなら、碧さん」
小さく呟くと、俺は再び駅のデッキへ出た。
夜空には青くはないブルームーンが輝いている。碧さんも、きっとこれを見上げていたんだろう。
さあ、ブルームーン。俺を13年後に連れて帰ってくれ。
…………。
何も起きない。
目を閉じて両手を広げ、それっぽく待って見ても何も起きない。
心の中で「ブルームーンの力よ! 我を未来へ運ぶのだ!」と呟いてみたところで、何も起きない。
どうしよう。無駄にウロウロと動き続けてしまう。これでは不審者だ。
そもそもブルームーンで帰れるというのは完全な推測だ。なんとなく思い込んでいただけで、確証はなかった。
まさかあんな涙の別れをして「やっぱり帰るの辞めました」と碧さんの元へは戻れない。
どうにかして、こっちの世界で生きて行くしかないのか!?
いやでも、スノードロップの続編は見たい。新人の碧さんも最高だったけど、2023年の碧さんの活躍も見たい。
「どうにかしてくれブルーム――あああッッ!!?」
ズルっと足が滑り、後ろにひっくり返って身体が打ち付けられる。
上ばかり見ていたから足が階段に向かっていたと気づかなかった!
階段を転げ落ちていく俺の頭上に、月が青く輝いていた。
これは……あのときと……同じ……?
・
・
・
「大丈夫ですかー?」
誰かの声が頭上から聞こえてくる。
全身の痛みに耐えながら、ゆっくり目を開けた。
「ゔ……」
俺を覗き込んでいたのは、マスクをした警察官だった。
「階段から落ちたんですね。救急車呼びましょうか?」
「かいだん、から……? っ! 今って何年ですか!?」
「え、い、今ですか? 2023年ですが」
飛び起きた俺に、たじろぎながら警察官が答えた。
にせんにじゅうさんねん……2023年!
「2023年! 8月31日ですか!?」
「そ、そうです。頭はハッキリしてるようですね。何かありましたら、声掛けてください」
そう言って、警察官はドン引きした様子で交番へ戻って行った。
帰って来たんだ。あの日の夜に。
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