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6-1.Silk Road
しおりを挟む次の日から、碧さんは家にいる間ずっとSilk Roadを読むようになった。
時にはセリフを声に出して練習していたりする。第一希望のウィンはもちろん、オーディションで受けられるありとあらゆる役を。
Silk Roadのいろんな役を碧さんの声で聴けるなんて、今しかない貴重な時間だ。
が、たまに「どう?」なんて感想を求められると困る。俺はそれぞれのキャラの『本当の声』を知っている。いくら大好きな碧さんの声でも違和感はあるわけで。
でもそんなことは言えないし、かといって「イマイチです」とも言えない。けど、「すごくいいですよ!」「イメージピッタリです!」なんて言えるわけもなく。
オーディションは、まずはテープ審査かららしい。それに受かればスタジオでのオーディションに進める。
できれば落ちてほしい。ここで落ちれば、まだ傷は浅く済む。
家で大声は出せないからと毎日カラオケに通って練習している碧さんには悪いが、俺は秘かに不合格を祈った。
しかしその日、碧さんが帰ってくるなり右手を掲げた。
「テープ審査受かったー!」
声だけ聴いたら、まるでテストで100点を取った小学生のようだ。
思わず顔が引きつってしまった。なんとか喜ばないといけないのに。苦労して笑顔を浮かべ、拍手を送る。
「おめでとうございます」
「ありがとう! しかもウィン役で通ったんだ。あと一歩だよ」
よりによって!
声優さんがわざわざ落ちたオーディションのことを話すことはない。あるとしたら、別の役で受かって「実はあっちも受けてたんですよ」と言うときくらいだ。
しかし碧さんは結果的にどの役でも出演していないのだから、そんなトークを聞く機会はなかった。まさかいいところまで残っていたとは。
「これ、合格祝いに買ってきた」
碧さんが鞄から出したのは、Silk Roadの新刊。そういえば、今日発売日だった。
「本誌は立ち読みで済ませちゃってるけど、コミックスはやっぱり買わないとね。キャストコメントで『全巻持ってます!』って言えないとだから」
もう受かった気でいるらしい。
碧さんはずっとニコニコして、足取りもふわふわしている。可愛いと可哀想が俺の胸で揺れ動く。
「スタジオでのオーディションは、いつなんですか?」
「来週。もう何日かしかないけど、ラストスパート頑張らないと。ご飯食べたらカラオケ行ってくる」
「え、今日行くんですか?」
「うん。やれることは全部やるって決めたんだ」
素晴らしい心がけ。夢を追う希望の光に満ち溢れている。
けどその分、ダメだったときの絶望も大きいだろう。
「今日はもういいんじゃないですか? アフレコだけじゃなくて、バイトもあったんですよね。疲れてるでしょうし、無理はしない方が」
「大丈夫だよ、別に疲れてないから。早くご飯食べよう」
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