上 下
90 / 92
エピローグ

2

しおりを挟む
  帰宅すると、白銀が寝そべってテレビを観ていた。

『お帰り~。ねえねえ、なつみん、これ面白いね。皆、色んな格好をしてる』

 白銀が観ていたのは、先日渋谷で行われた、ハロウィンの仮装の様子だった。

『これ何なの? この辺ではやらないの?』
「外国の行事ですよ。最近、日本でも盛んになってきて……。京都でもやりますけど、ここまで大規模ではないですね」

 何だ、と白銀は残念そうな顔をした。

『僕も交じりたかったのに』
「白銀さんなら、その格好ですでにコスプレですね」

 クスリと笑うと、なつみは白銀に、紙袋を手渡した。

「大家さんからの頂き物です。それこそ、ハロウィン絡みですよ」

 売れ残ったというカボチャのクッキーを、房代はおまけに付けてくれたのだ。

『へえ。面白い形をしてる』

 白銀は、さっそく中身を取り出すと、しげしげと見つめたが、意外にもすぐに食べようとはしなかった。

『けど、これはおやつにしよう。今日は、お祝いがあるし』
「お祝い?」

 すると白銀は、意味ありげな笑みを浮かべて、冷蔵庫を指した。

『開けてみて』

 言われるがまま冷蔵庫を開けて、なつみはおーっと歓声を上げた。そこには、目を見張るほどたくさんの酒と食物が入っていたのだ。日本酒、ビール、焼酎、そして寿司に刺身、海鮮ピザにスナック菓子……。

『命婦様から。僕がここでなつみんと出会って、一年でしょ。記念の宴でもやりなさいって』
「こんなにいただいていいんですか」

 さすがになつみは遠慮したが、白銀はけろりとしている。

『ほとんどは、白狐社へのお供え物だし。命婦様、参拝に来る人たちに、念を送り続けられたんだよ。我々白狐は、魚も食べられるんだってね。おかげで、魚介系のお供え物が増えたんだ』

 命婦は妙なところで念を使うのだなあ、となつみは呆れた。

『あっ、でも寿司はうかりん様からね。なつみんをスカウトした僕へのご褒美じゃないかな』
 
  胸をはる白銀を、なつみはじろりとにらんだ。

「微妙に、違うと思いますけど。たまたま白銀さんが仕事をさぼってて、私がヘルプしただけでしょ」
『……まあ、とりあえず食べようよ』

 何だかごまかされた気もするが、なつみは、食卓の準備を始めた。小さなテーブルに、どうにか寿司と刺身、日本酒を配置し終えると、なつみはお猪口に酒を注いだ。白銀とここで過ごすようになってから、買いそろえたものだ。

「じゃあ、乾杯」
『乾杯!』

 向かい合って、まずは日本酒を堪能する。続いて寿司を取り分けようとしたその時、なつみのスマホが鳴った。

「あ、ちょっとごめんなさい」

 断って、電話に出る。すると、懐かしい声が耳に飛び込んできた。

『なつみん、久しぶり!』

 友人の絵里だった。話すのは、八月にここで会って以来だ。定期的にメッセージはやり取りしているが、電話をかけてくるのは珍しい。何だろう、となつみは訝った。

「どうしたの?」
『うん、ちょっとニュースがあってさ』

 絵里の声音は弾んでいた。

『実は、結婚が決まったの! 職場の人の紹介なんだけどさ』
「本当!?」

 なつみは、思わずスマホを握り直していた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽りの結婚生活 スピンオフ(短編集)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:107

【完結】政略の価値も無い婚約者を捨てたら幸せになった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:1,691

読書の魔女のスローライフ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:50

戦国征武劇 ~天正弾丸舞闘~

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:604pt お気に入り:3

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:189

お礼に半分食べてあげる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

すき、きらい、でもすき

k
恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:888

処理中です...