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エピローグ
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帰宅すると、白銀が寝そべってテレビを観ていた。
『お帰り~。ねえねえ、なつみん、これ面白いね。皆、色んな格好をしてる』
白銀が観ていたのは、先日渋谷で行われた、ハロウィンの仮装の様子だった。
『これ何なの? この辺ではやらないの?』
「外国の行事ですよ。最近、日本でも盛んになってきて……。京都でもやりますけど、ここまで大規模ではないですね」
何だ、と白銀は残念そうな顔をした。
『僕も交じりたかったのに』
「白銀さんなら、その格好ですでにコスプレですね」
クスリと笑うと、なつみは白銀に、紙袋を手渡した。
「大家さんからの頂き物です。それこそ、ハロウィン絡みですよ」
売れ残ったというカボチャのクッキーを、房代はおまけに付けてくれたのだ。
『へえ。面白い形をしてる』
白銀は、さっそく中身を取り出すと、しげしげと見つめたが、意外にもすぐに食べようとはしなかった。
『けど、これはおやつにしよう。今日は、お祝いがあるし』
「お祝い?」
すると白銀は、意味ありげな笑みを浮かべて、冷蔵庫を指した。
『開けてみて』
言われるがまま冷蔵庫を開けて、なつみはおーっと歓声を上げた。そこには、目を見張るほどたくさんの酒と食物が入っていたのだ。日本酒、ビール、焼酎、そして寿司に刺身、海鮮ピザにスナック菓子……。
『命婦様から。僕がここでなつみんと出会って、一年でしょ。記念の宴でもやりなさいって』
「こんなにいただいていいんですか」
さすがになつみは遠慮したが、白銀はけろりとしている。
『ほとんどは、白狐社へのお供え物だし。命婦様、参拝に来る人たちに、念を送り続けられたんだよ。我々白狐は、魚も食べられるんだってね。おかげで、魚介系のお供え物が増えたんだ』
命婦は妙なところで念を使うのだなあ、となつみは呆れた。
『あっ、でも寿司はうかりん様からね。なつみんをスカウトした僕へのご褒美じゃないかな』
胸をはる白銀を、なつみはじろりとにらんだ。
「微妙に、違うと思いますけど。たまたま白銀さんが仕事をさぼってて、私がヘルプしただけでしょ」
『……まあ、とりあえず食べようよ』
何だかごまかされた気もするが、なつみは、食卓の準備を始めた。小さなテーブルに、どうにか寿司と刺身、日本酒を配置し終えると、なつみはお猪口に酒を注いだ。白銀とここで過ごすようになってから、買いそろえたものだ。
「じゃあ、乾杯」
『乾杯!』
向かい合って、まずは日本酒を堪能する。続いて寿司を取り分けようとしたその時、なつみのスマホが鳴った。
「あ、ちょっとごめんなさい」
断って、電話に出る。すると、懐かしい声が耳に飛び込んできた。
『なつみん、久しぶり!』
友人の絵里だった。話すのは、八月にここで会って以来だ。定期的にメッセージはやり取りしているが、電話をかけてくるのは珍しい。何だろう、となつみは訝った。
「どうしたの?」
『うん、ちょっとニュースがあってさ』
絵里の声音は弾んでいた。
『実は、結婚が決まったの! 職場の人の紹介なんだけどさ』
「本当!?」
なつみは、思わずスマホを握り直していた。
『お帰り~。ねえねえ、なつみん、これ面白いね。皆、色んな格好をしてる』
白銀が観ていたのは、先日渋谷で行われた、ハロウィンの仮装の様子だった。
『これ何なの? この辺ではやらないの?』
「外国の行事ですよ。最近、日本でも盛んになってきて……。京都でもやりますけど、ここまで大規模ではないですね」
何だ、と白銀は残念そうな顔をした。
『僕も交じりたかったのに』
「白銀さんなら、その格好ですでにコスプレですね」
クスリと笑うと、なつみは白銀に、紙袋を手渡した。
「大家さんからの頂き物です。それこそ、ハロウィン絡みですよ」
売れ残ったというカボチャのクッキーを、房代はおまけに付けてくれたのだ。
『へえ。面白い形をしてる』
白銀は、さっそく中身を取り出すと、しげしげと見つめたが、意外にもすぐに食べようとはしなかった。
『けど、これはおやつにしよう。今日は、お祝いがあるし』
「お祝い?」
すると白銀は、意味ありげな笑みを浮かべて、冷蔵庫を指した。
『開けてみて』
言われるがまま冷蔵庫を開けて、なつみはおーっと歓声を上げた。そこには、目を見張るほどたくさんの酒と食物が入っていたのだ。日本酒、ビール、焼酎、そして寿司に刺身、海鮮ピザにスナック菓子……。
『命婦様から。僕がここでなつみんと出会って、一年でしょ。記念の宴でもやりなさいって』
「こんなにいただいていいんですか」
さすがになつみは遠慮したが、白銀はけろりとしている。
『ほとんどは、白狐社へのお供え物だし。命婦様、参拝に来る人たちに、念を送り続けられたんだよ。我々白狐は、魚も食べられるんだってね。おかげで、魚介系のお供え物が増えたんだ』
命婦は妙なところで念を使うのだなあ、となつみは呆れた。
『あっ、でも寿司はうかりん様からね。なつみんをスカウトした僕へのご褒美じゃないかな』
胸をはる白銀を、なつみはじろりとにらんだ。
「微妙に、違うと思いますけど。たまたま白銀さんが仕事をさぼってて、私がヘルプしただけでしょ」
『……まあ、とりあえず食べようよ』
何だかごまかされた気もするが、なつみは、食卓の準備を始めた。小さなテーブルに、どうにか寿司と刺身、日本酒を配置し終えると、なつみはお猪口に酒を注いだ。白銀とここで過ごすようになってから、買いそろえたものだ。
「じゃあ、乾杯」
『乾杯!』
向かい合って、まずは日本酒を堪能する。続いて寿司を取り分けようとしたその時、なつみのスマホが鳴った。
「あ、ちょっとごめんなさい」
断って、電話に出る。すると、懐かしい声が耳に飛び込んできた。
『なつみん、久しぶり!』
友人の絵里だった。話すのは、八月にここで会って以来だ。定期的にメッセージはやり取りしているが、電話をかけてくるのは珍しい。何だろう、となつみは訝った。
「どうしたの?」
『うん、ちょっとニュースがあってさ』
絵里の声音は弾んでいた。
『実は、結婚が決まったの! 職場の人の紹介なんだけどさ』
「本当!?」
なつみは、思わずスマホを握り直していた。
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