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クレーマー三号(ホンちゃん)

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「何や。おばあさんのことやのに、知らへんの?」

 雪絵は、一瞬呆れたような表情を浮かべたが、意外にもあっさり教えてくれた。

「『ダイ』いうんは、神様の代理をする人のことや。せやから漢字は、多分『代理』の代やろな。あんたのおばあさんは、神様の声が聞こえる、特別な存在やったんやで」

 ドキリとした。なつみ自身も、宇迦之御魂大神やその眷属たちの声が聞こえ、姿が見えるではないか。宇迦之御魂大神が言っていた『素質がある』というのは、このことだったのか。

「あんたのおばあさん……右京天珠はんは、神様のお告げを、色んな人に伝えてはったそうや。病気や事故、災害を予知して、阻止しはった。不思議な巫女、いうことで、おばあさんの元には、大勢の人が悩み相談に来るようになったんやて。学業、商売、結婚……。おばあさんは、神様にお伺いを立て、その結果を相談者に伝えた。言うことを聞きはった人は、成功したそうやで」

 なつみは、呆然と聞いていた。医学部受験に結婚と、祖母が様々な分野で助言をしていたわけが、ようやくわかった。祖母は、神の声を聞いていたのだ。

「ほんまに、知らんかったん? ま、同じ巫女ゆうても、あんたは平凡そうやな」

 雪絵が皮肉っぽく言ったが、なつみは黙っていた。宇迦之御魂大神の言う通り、自分にも『ダイ』の素質があると知れれば、相談に来る者も現れるのではないかと考えたのだ。

(もしかして、うかりん様が巫女業務に専念させようと言い出されたのは、おばあちゃんと同じことをさせるため……?)

 そうだとすれば、責任重大だ。人の一生を左右するような存在になるのだから。

(私に、できるだろうか……)

「榊はん? どうしはったん?」

 黙りこくるなつみを不審に思ったのか、雪絵が尋ねる。なつみは、バッと立ち上がると、雪絵の手を取った。

「雪絵さん、本当にありがとう。初めて、感謝しました!」
「ええ!? これくらい……。というか、初めてって何やの。失礼な……」

 ぶつぶつ言う雪絵を後に、なつみはくるりと踵を返した。

「また来ます。じゃあ、お大事にしてくださいね!」

 パパ活の相手は逮捕されたし、英介は、白銀と宇迦之御魂大神が対処してくれる。雪絵に関しては、ひとまず安心だろう。ならば、『ダイ』の件を宇迦之御魂大神に確認しようと思ったのだ。

 もう来んでええわよ、とぼやく雪絵を無視して、なつみは病室を飛び出した。だがそのとたん、なつみは固まった。目の前に、神主姿の男が現れたのだ。それも、二人。

(しかも、この人たち……?)

『お盆だからと帰って来てみれば、これは一体どういうことです?』

 一人が、目を吊り上げる。それは、紛れもなくホンちゃんだった。

(リアルで、現れた……!)
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