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クレーマー二号(テイちゃん)
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(しかし、てっきり人間だと思ってたなあ……)
なつみは、先ほどの夫婦の姿を思い浮かべた。道理で最初に話しかけた時、驚愕していたはずだ。『こんな巫女さんもいらっしゃるなんて』という言葉の意味も、ようやくわかった。自分たちの姿が見えるとは、思わなかったのだろう。当然、おもかる石を持ち上げられるわけも無い。
(最後に来たのがここ、って言っていたっけ)
病気祈願でチャレンジしたがダメだった、とも話していた。もしかして、その病気で亡くなったのだろうか。
『死してなお、我が伏見稲荷大社にやって来るとはなあ』
切なくなるなつみをよそに、宇迦之御魂大神は何やら上機嫌だ。
『やはり、私の威光ゆえだな! 住吉大神や春日神らとは違うわ!』
住吉大社と春日大社のご祭神たちか。同じ関西圏だけに、競争心か、となつみは呆れた。
『というわけで、そなたにはバッチリ霊の姿が見え、声も聞こえる。後は、よろしく任せたぞ。私は、参拝客の願いをさばくので忙しいのでな』
言いたいことだけ早口で並べ立てると、宇迦之御魂大神は来た時同様、唐突に姿を消したのだった。
『ではなつみ殿、参りましょうか』
宇迦之御魂大神の言動には慣れているのか、命婦は驚くこともなく、あっさり言った。
「あ、はい。よろしくお願いします」
張られた結界の中を、命婦、白銀と連れ立って、前回訪れた石灯籠の所まで歩く。二人なら飛べるはずだが、なつみに合わせてくれるようだ。
『手続的なことは、白銀がやっているのを見て覚えましょう。あの灯籠が窓口で、仏たちは、整理券を持ってやって参ります。このリストで戒名を確認して、話を聞くこと』
そう言って命婦が見せたリストは、またしても紙垂であった。
『受付は、午後五時まで。ごねる仏もおりますが、遠慮無く窓口を閉じてよろしいですからね』
まるで役所だな、となつみは思った。そんななつみの思いを察したのか、命婦が付け加える。
『わーく・らいふ・ばらんす、とかいうやつですわ』
「……現世の流行を取り入れて、ですね」
もはやすっかり馴染んだフレーズを、先に口に出せば、命婦はそうそうと大きく頷いた。それにしても、宇迦之御魂大神が(ランキング維持のためとはいえ)忙しく働く中で、お使いであるはずの眷属たちが、午後五時で仕事を終えていいのだろうか。
(神様たちの事情って、いまいちよくわからない……)
あれこれ考えながら歩いているうちに、やがて灯籠の所へ着いた。命婦はここまでだと言って、紙垂リストを白銀に託して去った。白銀と二人で残されると、なつみはややほっとした。宇迦之御魂大神や命婦という大きな存在が一緒だと、やはり緊張する。
「白銀さんの職場って、こんな感じなんですねえ」
思わず感想を漏らせば、白銀は、うん、とけろりと答えた。
『うかりんは、ああいう感じでいつもイケイケ。命婦様は、適度にリラックスしながらの方が、仕事も能率は上がるってスタンス。間に入る私は大変ですけどねって、いつも念押しされるけどね』
モーレツ社長と、要領良い中間管理職、という図式が、なつみの脳裏に浮かんだ。
『でもって、お二人の共通のモットーは、これ。利用できる資源は、全て有効活用せよ!』
その『資源』に自分も含まれるのだろうか、となつみは思った。
『んじゃ、そろそろ開庁するね』
白銀が、以前命婦がしていたように、石灯籠に手をかざす。なつみは、おおっと声を上げそうになった。この前は何も見えなかったが、今回は、灯籠が白く光ったのだ。そして窓の部分が、大きく広がった。
(おお、まさに窓口……!)
白銀は、紙垂リストを一瞥すると、灯籠窓に向かって呼びかけた。
『57番の番号札をお持ちの仏様~』
なつみは、ドキドキしながら見守った。
なつみは、先ほどの夫婦の姿を思い浮かべた。道理で最初に話しかけた時、驚愕していたはずだ。『こんな巫女さんもいらっしゃるなんて』という言葉の意味も、ようやくわかった。自分たちの姿が見えるとは、思わなかったのだろう。当然、おもかる石を持ち上げられるわけも無い。
(最後に来たのがここ、って言っていたっけ)
病気祈願でチャレンジしたがダメだった、とも話していた。もしかして、その病気で亡くなったのだろうか。
『死してなお、我が伏見稲荷大社にやって来るとはなあ』
切なくなるなつみをよそに、宇迦之御魂大神は何やら上機嫌だ。
『やはり、私の威光ゆえだな! 住吉大神や春日神らとは違うわ!』
住吉大社と春日大社のご祭神たちか。同じ関西圏だけに、競争心か、となつみは呆れた。
『というわけで、そなたにはバッチリ霊の姿が見え、声も聞こえる。後は、よろしく任せたぞ。私は、参拝客の願いをさばくので忙しいのでな』
言いたいことだけ早口で並べ立てると、宇迦之御魂大神は来た時同様、唐突に姿を消したのだった。
『ではなつみ殿、参りましょうか』
宇迦之御魂大神の言動には慣れているのか、命婦は驚くこともなく、あっさり言った。
「あ、はい。よろしくお願いします」
張られた結界の中を、命婦、白銀と連れ立って、前回訪れた石灯籠の所まで歩く。二人なら飛べるはずだが、なつみに合わせてくれるようだ。
『手続的なことは、白銀がやっているのを見て覚えましょう。あの灯籠が窓口で、仏たちは、整理券を持ってやって参ります。このリストで戒名を確認して、話を聞くこと』
そう言って命婦が見せたリストは、またしても紙垂であった。
『受付は、午後五時まで。ごねる仏もおりますが、遠慮無く窓口を閉じてよろしいですからね』
まるで役所だな、となつみは思った。そんななつみの思いを察したのか、命婦が付け加える。
『わーく・らいふ・ばらんす、とかいうやつですわ』
「……現世の流行を取り入れて、ですね」
もはやすっかり馴染んだフレーズを、先に口に出せば、命婦はそうそうと大きく頷いた。それにしても、宇迦之御魂大神が(ランキング維持のためとはいえ)忙しく働く中で、お使いであるはずの眷属たちが、午後五時で仕事を終えていいのだろうか。
(神様たちの事情って、いまいちよくわからない……)
あれこれ考えながら歩いているうちに、やがて灯籠の所へ着いた。命婦はここまでだと言って、紙垂リストを白銀に託して去った。白銀と二人で残されると、なつみはややほっとした。宇迦之御魂大神や命婦という大きな存在が一緒だと、やはり緊張する。
「白銀さんの職場って、こんな感じなんですねえ」
思わず感想を漏らせば、白銀は、うん、とけろりと答えた。
『うかりんは、ああいう感じでいつもイケイケ。命婦様は、適度にリラックスしながらの方が、仕事も能率は上がるってスタンス。間に入る私は大変ですけどねって、いつも念押しされるけどね』
モーレツ社長と、要領良い中間管理職、という図式が、なつみの脳裏に浮かんだ。
『でもって、お二人の共通のモットーは、これ。利用できる資源は、全て有効活用せよ!』
その『資源』に自分も含まれるのだろうか、となつみは思った。
『んじゃ、そろそろ開庁するね』
白銀が、以前命婦がしていたように、石灯籠に手をかざす。なつみは、おおっと声を上げそうになった。この前は何も見えなかったが、今回は、灯籠が白く光ったのだ。そして窓の部分が、大きく広がった。
(おお、まさに窓口……!)
白銀は、紙垂リストを一瞥すると、灯籠窓に向かって呼びかけた。
『57番の番号札をお持ちの仏様~』
なつみは、ドキドキしながら見守った。
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