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クレーマー一号(ズイちゃん)

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 なつみは、間髪を容れずに叱りつけていた。

「勝手に持って来て、私が神様に罰を当てられたらどうするんです!」
『あ、それは安心して』

 白銀は、にこにこしている。

『これは、僕ら眷属用に供えられたものだから。僕が好きに飲んでいい分だよ。同じものでなくて悪かったけど』

 一応、謝罪の気持ちはあるらしい。なつみはため息をつくと、再び梯子に足をかけた。

「いただきます。ただ食器の類は下にあるんで、下で飲みますよ。持って降りて来てもらえます? 降りられるんですよね?」

 先ほど冷蔵庫を開けていたのだから、できるはずだ。オーケー、と明るく答えると、白銀は着物の袂から風呂敷を出した。広げて瓶類を包み込み、ふわりと下へ飛び降りる。

「本格的なお猪口は無いんで、これで代用しますね」

 ビールグラスを二人分出し、テーブルに並べる。すると白銀は、気まずそうな顔をした。

『いや、さっきは本当にごめん。いつも日本酒ばかり供えられるから、違うお酒を飲んでみたかったんだよね。でも、すごく楽しみにしてたんだろ? 悪かった』
「もういいですって。こんなに持って来ていただいたんだし」

 レモンサワーより、これらの方がはるかに高価だ。むしろ申し訳ないくらいである。逆に白銀にしてあげられることは、となつみは考えた。

「おつまみ、何か作りましょうか。簡単なものになりますけど……。あ、ちょうどおあげさんがありますよ。これでおひたしでも……」

 狐といえば油揚げ、と思ったなつみだったが、意外にも白銀はぷるぷるかぶりを振った。

『気を遣わないで! というか、実は、油揚げには飽き飽きしてるんだよ』
「え、そうなんですか」

 そりゃあ、と白銀は頷いた。

『いや、お供えしてくれる気持ちはありがたいよ? けど、長年、同じ物ばかりお供えされてたら、さすがに飽きるって。人間だってそうでしょ?』

 それもそうか、となつみは納得した。

「でも、おつまみ無しというのも……。食べてみたいものとか、ありますか? 近くのコンビニで手に入る程度のものになりますけど」

 つまみといっても、さすがに肉類はまずいだろう。何がいいかと思案していると、白銀の方から言い出した。

『前の住人が食べてたんだけどさ、何かこう、芋を薄くして油で揚げたもの? 食べてる時の音が、爽やかでいいんだよなあ』
「あ~、あれですね」

 それなら買いに行かなくても、キッチンにある。人気の薄い塩味を持って戻って来ると、白銀は手を叩いて喜んだ。

『これこれ!』
「じゃあ、飲みましょうか」

 日本酒が飲めるといっても、それほど詳しいわけではない。持って来た酒の中から、比較的度数が低めのものをチョイスしてもらって、なつみは二人分をグラスに注いだ。向かい合って、テーブルに腰かける。

『えーと、打ち上げとかいってたよね? じゃあ、乾杯』
「ありがとうございます」

 一人で祝うつもりだったのだが、と思いつつ、なつみは白銀とグラスを合わせた。一拍おいて、じろりと彼を見る。

「と、こ、ろ、で。今日はどうしてここへ? まさか、レモンサワーの存在を嗅ぎつけたわけじゃないですよね?」
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