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第四章 真実

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 わたしは、小走りに駆けていた。大きな木の下に、すらりとした一人の青年の姿を見つけて、わたしの心臓はドキンと跳ねる。ああ、何て素敵なんだろう。わたしの愛しい恋人・ルイは。金色の髪が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。おまけに賢くて、話術も巧みで、剣の腕も優れていて。彼に夢中な娘は、山ほどいる。どうしてわたしなんかを選んでくれたのだろう、と思うくらいだ。
 ルイが、こちらを振り返る。わたしの姿を認めると、彼は満面の笑みを浮かべて、手を広げた。それなのにわたしの瞳からは、涙がこぼれ落ちた。
『マリー、どうしたのですか?』
 ルイが駆け寄ってくる。愛する彼の胸に抱きしめられても、わたしは泣くのを止められずにいた。
『こんな風にあなたに涙を流させるのは、どこのどいつです? 地の果てまでも追い詰めて、成敗してくれよう……』
 ルイの青い瞳が、怒りに燃える。わたしはようやく涙を拭うと、違うのです、と言った。
『お父様が、わたくしに結婚をお命じになったのです』
『――ああ、何ということだ……』
 ルイは、手で額を押さえた。
『では私は、先ほどの言葉を撤回しなければいけませんね。誰よりも愛している女性のお父上を、手にかけることはできません』
 ルイは跪くと、わたしに一輪の白薔薇を差し出した。
『これを、あなたに。だから、もう泣かないでください』
『まあ、素敵……』
 わたしは、思わず悲しみも忘れて受け取った。
『でも、一体どこで手に入れてくださったのですか?』
『修道院の庭から、こっそりいただいて参りました。綺麗ね、とあなたが以前仰っていたので』
 ルイは、悪戯っぽい微笑を浮かべた。
『あなたにぴったりだ……。純粋で、清らかで』
 白い薔薇は、マリア様の象徴とされるもの。気恥ずかしくなり、わたしはうつむいた。
『そんな風に仰っていただく資格はありませんわ……。あなたを愛しているのに、お父様にノンと言えませんでした』
『お父上に逆らうことはできないでしょう。ご自分を責めないでください。……ところで、あなたのお相手とは?』
『フランソワ卿ですの』
 わたしは、顔を伏せたまま告げた。ルイは、しがない子爵家の三男なのだ。お父様は、猛反対だった。一方フランソワは、由緒ある侯爵家の長男である。家柄、財力ともに申し分ない縁談だ、とお父様は大喜びだ。何としてでも、わたしを彼と結婚させるに違いない。そして、わたしに拒否権はない……。
『でも、わたくしは嫌です! わたくしが……マリーが愛しているのは、ルイ、あなたですのに……』
『マリー、落ち着いてください』
 再び泣き出したわたしの髪を、ルイがそっと撫でる。
『お父上が認めてくださらないなら、仕方ありません。一緒に逃げましょう』
『逃げる、ですって?』
 わたしは驚いて、ルイの顔を見上げた。
『はい。二人でここを離れて、どこか知らない土地で一緒に暮らすのです』
 わたしは逡巡した。そんなことが、自分にできるのだろうか。これまでのわたしは、ずっとお父様の言いなりだった。伯爵家の令嬢として教養を身に付け、刺繍と読書に明け暮れて……。
 ルイは、真剣な瞳でわたしを見つめている。わたしは決意した。
『わたくしは、愛してもいない方と結婚はできません。わたくしの夫は、あなただけです。どこまでも、付いて参ります』
『マリー……』
 ルイは再びわたしを抱きしめると、頬にキスをした。
『逃げるなら、早い方がいいです。今夜、誰にも見つからないように、一人で抜け出せますか?』
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