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第四章 真実
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数時間後、ようやく全ての準備が整った。
『お疲れ様。あなたたち、先に帰っていいわ。私は、もう少し残るから.明日の実演販売の、イメージトレーニングをしたいの』
エヴァが言う。ミカは他の店を見て回ると言うので、真凜は一人で帰路に就いた。ちなみに麻生ら社員は、恐らく徹夜になるとのことである。
従業員用のエレベーターの前で待っていると、女性二人組がやって来た。どうやらここの社員らしく、声高に喋り合っている。
「でも、マジだったんだねー」
「前から、噂あったけどね。社長の一人息子が、身分を隠して、社員に交じって修行してるって」
聞くともなしに、真凜はぼんやり聞いていた。すると、とんでもない台詞が耳に飛び込んできた。
「だけど、麻生さんがそうってのは、確かなの?」
(――何だって)
真凜は、思わず女性たちの方を見た。二人は、真凜には気づかない様子で、けたたましく騒いでいる。
「食品部の課長が喫煙所で愚痴ってるのを、ユキが聞いちゃったんだって。御曹司だからって、わがままが通ると思ってやがる、って……。ほら、変な口コミが書かれた店があったじゃん? どこだか忘れたけど……。上の人は出店取り消しにしたかったんだけど、麻生さんが出すって強情張ったらしくて」
『ドン・ラヴニール』のことだ。真凜はひやりとしたが、話に夢中な女性たちは、真凜がそこの店員とも知らず、盛り上がっている。そこへ、エレベーターが到着した。一緒に乗り込みながら、真凜は耳をそばだてた。
「でも、御曹司イコール社長の息子とは、限んなくない?」
「ええー、その言い方は、絶対そうでしょ。それに麻生さんてアルファだし、年齢的にもそれらしいし……。第一、雰囲気がいかにもお坊ちゃまって感じじゃない?」
「何よ、玉の輿狙い?」
一人が、クスクスと笑う。
「違うってー。あたしは、そういうの勘弁。だってうちのデパートって、今時世襲制じゃん? 社長夫人なんかになったら、絶対男の子産まなきゃいけないじゃん。プレッシャーだよ」
「心配しなくても、あんたじゃ相手にされないって。どっかいいとこのお嬢さん迎えるんじゃない……」
エレベーターのドアが開く。真凜は、ふらふらと外に出た。脳裏では、女性たちの言葉がこだましていた。
――社長の一人息子が、身分を隠して……。
――御曹司……絶対そうでしょ……。
麻生が言っていた『話さないといけないこと』というのは、これだったのか。真凜は、はたと思い出した。ハンカチをプレゼントした時のことだ。イニシャルの話題の時、彼はこう言っていた。
――小さい頃、サインのつもりでよくふざけて書いていたものですよ……。『L・T』ってね……。
なぜ『T』なのか、とあの時思ったものだ。『藤堂百貨店』は、女性たちも言っていた通り世襲制だ。現社長の名字も、藤堂である。麻生の本名が藤堂なら、『T』でも納得できる……。
麻生のアパートに帰ると、真凜は彼の所持品を探った。麻生は、この『中世ヨーロッパ展』が終わるまで待ってくれと言っていた。こんなことをしてはいけないのは、わかっている。それでも、いてもたってもいられなかったのだ。
『お疲れ様。あなたたち、先に帰っていいわ。私は、もう少し残るから.明日の実演販売の、イメージトレーニングをしたいの』
エヴァが言う。ミカは他の店を見て回ると言うので、真凜は一人で帰路に就いた。ちなみに麻生ら社員は、恐らく徹夜になるとのことである。
従業員用のエレベーターの前で待っていると、女性二人組がやって来た。どうやらここの社員らしく、声高に喋り合っている。
「でも、マジだったんだねー」
「前から、噂あったけどね。社長の一人息子が、身分を隠して、社員に交じって修行してるって」
聞くともなしに、真凜はぼんやり聞いていた。すると、とんでもない台詞が耳に飛び込んできた。
「だけど、麻生さんがそうってのは、確かなの?」
(――何だって)
真凜は、思わず女性たちの方を見た。二人は、真凜には気づかない様子で、けたたましく騒いでいる。
「食品部の課長が喫煙所で愚痴ってるのを、ユキが聞いちゃったんだって。御曹司だからって、わがままが通ると思ってやがる、って……。ほら、変な口コミが書かれた店があったじゃん? どこだか忘れたけど……。上の人は出店取り消しにしたかったんだけど、麻生さんが出すって強情張ったらしくて」
『ドン・ラヴニール』のことだ。真凜はひやりとしたが、話に夢中な女性たちは、真凜がそこの店員とも知らず、盛り上がっている。そこへ、エレベーターが到着した。一緒に乗り込みながら、真凜は耳をそばだてた。
「でも、御曹司イコール社長の息子とは、限んなくない?」
「ええー、その言い方は、絶対そうでしょ。それに麻生さんてアルファだし、年齢的にもそれらしいし……。第一、雰囲気がいかにもお坊ちゃまって感じじゃない?」
「何よ、玉の輿狙い?」
一人が、クスクスと笑う。
「違うってー。あたしは、そういうの勘弁。だってうちのデパートって、今時世襲制じゃん? 社長夫人なんかになったら、絶対男の子産まなきゃいけないじゃん。プレッシャーだよ」
「心配しなくても、あんたじゃ相手にされないって。どっかいいとこのお嬢さん迎えるんじゃない……」
エレベーターのドアが開く。真凜は、ふらふらと外に出た。脳裏では、女性たちの言葉がこだましていた。
――社長の一人息子が、身分を隠して……。
――御曹司……絶対そうでしょ……。
麻生が言っていた『話さないといけないこと』というのは、これだったのか。真凜は、はたと思い出した。ハンカチをプレゼントした時のことだ。イニシャルの話題の時、彼はこう言っていた。
――小さい頃、サインのつもりでよくふざけて書いていたものですよ……。『L・T』ってね……。
なぜ『T』なのか、とあの時思ったものだ。『藤堂百貨店』は、女性たちも言っていた通り世襲制だ。現社長の名字も、藤堂である。麻生の本名が藤堂なら、『T』でも納得できる……。
麻生のアパートに帰ると、真凜は彼の所持品を探った。麻生は、この『中世ヨーロッパ展』が終わるまで待ってくれと言っていた。こんなことをしてはいけないのは、わかっている。それでも、いてもたってもいられなかったのだ。
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