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第一章 出会い
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「気を悪くなさらないでくださいね。エヴァさん、真剣にバイトを探しているんですよ」
「日本語はわからないんですか?」
いえ、と麻生はかぶりを振った。
「普通に意思疎通はできますよ。エヴァさんは、元々日本に修行に来られた方ですから。結局そのまま居着いて、昨年この店をオープンされたんです。でも細かいニュアンスを伝えるには、やっぱりフランス語の通じる人がいいみたい。……何せ、気難しい性格ですからね」
麻生は、最後の方を小声で言うと微笑んだ。
「それにしても真凜さん、すごい流暢さですね? 買われていた本も、相当高度だなと思っていたんですが、ペラペラじゃないですか。留学でもされてました?」
「いえ、オンラインで習いました。最初は、僕が生徒の立場だったんですよ」
家に引きこもるようになり、暇を持て余した真凜は、前から興味のあったフランス語を習い始めたのだ。自分で言うのも何だが、あっという間に習得した。三か月も経つ頃には、フランス人の講師は『もう教えることはない』と言い出したのだった。
「それはすごいですね」
麻生は目を見張った。
「いえ……。麻生さんこそ、留学されたんですか?」
麻生の発音は、本格的な美しさだった。だが彼は否定した。
「高校時代、趣味で勉強しました。昔から、中世フランスに関心がありましてね……。ああ、そういえば先ほどは、援護射撃をありがとうございました。助かりましたよ」
麻生は、軽くウインクした。
「『中世ヨーロッパ展』って、どんなことをするんですか?」
真凜は、がぜん興味が湧いてきた。
「文字通り、中世ヨーロッパに関するあらゆるアイテムを集めたフェアです。アンティーク雑貨に書籍、そして食。イートインコーナーもありますよ。あとは、当時の衣装を身に付けて撮影会、とかね」
麻生はイキイキと語っている。二十四歳ということは、入社二年目かそこらだろう。それなのに、ずいぶん大きな仕事を任されているんだな、と思う。それに内容もさることながら、彼の態度は自信に満ちあふれている。真凜は、何ともいえない頼もしさを覚えた。
「で、スイーツ担当としては、何が何でもこのタルトを出したいわけです。というわけで、エヴァさんのお許しが出るまで、僕は辛抱強くここに通いますよ。そしてゆくゆくは、我がデパートのスイーツコーナーへ出店を……」
興奮したのか、麻生の声はやや大きくなった。女店員が、再びこちらをにらむ。麻生は、しまったという顔で真凜に笑いかけた。その笑顔に真凜は、不思議な安心感を覚えたのだった。
「日本語はわからないんですか?」
いえ、と麻生はかぶりを振った。
「普通に意思疎通はできますよ。エヴァさんは、元々日本に修行に来られた方ですから。結局そのまま居着いて、昨年この店をオープンされたんです。でも細かいニュアンスを伝えるには、やっぱりフランス語の通じる人がいいみたい。……何せ、気難しい性格ですからね」
麻生は、最後の方を小声で言うと微笑んだ。
「それにしても真凜さん、すごい流暢さですね? 買われていた本も、相当高度だなと思っていたんですが、ペラペラじゃないですか。留学でもされてました?」
「いえ、オンラインで習いました。最初は、僕が生徒の立場だったんですよ」
家に引きこもるようになり、暇を持て余した真凜は、前から興味のあったフランス語を習い始めたのだ。自分で言うのも何だが、あっという間に習得した。三か月も経つ頃には、フランス人の講師は『もう教えることはない』と言い出したのだった。
「それはすごいですね」
麻生は目を見張った。
「いえ……。麻生さんこそ、留学されたんですか?」
麻生の発音は、本格的な美しさだった。だが彼は否定した。
「高校時代、趣味で勉強しました。昔から、中世フランスに関心がありましてね……。ああ、そういえば先ほどは、援護射撃をありがとうございました。助かりましたよ」
麻生は、軽くウインクした。
「『中世ヨーロッパ展』って、どんなことをするんですか?」
真凜は、がぜん興味が湧いてきた。
「文字通り、中世ヨーロッパに関するあらゆるアイテムを集めたフェアです。アンティーク雑貨に書籍、そして食。イートインコーナーもありますよ。あとは、当時の衣装を身に付けて撮影会、とかね」
麻生はイキイキと語っている。二十四歳ということは、入社二年目かそこらだろう。それなのに、ずいぶん大きな仕事を任されているんだな、と思う。それに内容もさることながら、彼の態度は自信に満ちあふれている。真凜は、何ともいえない頼もしさを覚えた。
「で、スイーツ担当としては、何が何でもこのタルトを出したいわけです。というわけで、エヴァさんのお許しが出るまで、僕は辛抱強くここに通いますよ。そしてゆくゆくは、我がデパートのスイーツコーナーへ出店を……」
興奮したのか、麻生の声はやや大きくなった。女店員が、再びこちらをにらむ。麻生は、しまったという顔で真凜に笑いかけた。その笑顔に真凜は、不思議な安心感を覚えたのだった。
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