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第五章 泡沫の夢
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壮介は、せせら笑った。
「親父から、小田桐って名字を聞いた時は、まさかと思ったが。本物の、小田桐ホールディングスの御曹司とはな……。釣り合うとでも、本気で思ってんのか!」
壮介は、聖の方に向き直った。
「小田桐の坊ちゃん。この瑞紀は、とんでもない淫乱ですよ。高校時代、こいつは俺の家に同居してました。毎日、俺とやりまくってたんです。それだけじゃない。進学もしないで、就いた仕事は売り専……」
次の瞬間、バシン、と鈍い音がした。瑞紀は、信じられない思いで目の前の光景を眺めていた。聖が、壮介を張り倒したのだ。
「な……、何だよ……」
壮介は、唖然とした表情で、聖を見上げた。口の中を切ったのか、唇からは血が滴っている。
「本当のことを言っただけだろ! HOTELブランなんか、もう辞めてやる。怖いもんは無い……」
「お前がどこに転職しようが、突き止めて素行をばらしてやろう。お前が、瑞紀にしたようにな」
聖が吐き捨てるように言うと、壮介はぐっと詰まった。聖は、そんな壮介の胸ぐらをつかむと、怒鳴りつけた。
「もう一度瑞紀を侮辱したら、命は無いものと思え!」
その声は、バー内に響き渡った。ぽつぽつと居た客たちが、何事かとこちらを見る。スタッフたちは、恐る恐るといった様子で近寄って来た。
「失礼しました」
聖は、スタッフらに短く謝罪すると、胸ポケットから財布を取り出した。目を見張るほどの厚さの札束を取り出し、彼らに押し付ける。
「お詫びにもならないでしょうが、こちらにいらっしゃるお客様たちに、お好みの酒をご提供ください。余ったら、あなた方へのチップということで。騒がしくして、申し訳ありませんでした」
スタッフたちは、まだ戸惑いの色を残しつつも、頬を緩めて札束を受け取った。そこへ、パタパタと足音がした。明人が戻って来たのだ。秘書らしき大柄な男を従えている。
「聖、どうしたの?」
「村越が瑞紀さんを侮辱したので、たしなめていたんだ。もう退職するつもりらしく、でたらめをまくし立てている。決して、信用しないようにな」
瑞紀の名誉を守ってくれるつもりだろう、聖は後半を強調した。明人は真剣な表情でうなずいていたが、ふと微笑んだ。
「了解。……けど聖、どんなたしなめ方をしたのさ? 僕のことを言えないんじゃない?」
頬を腫らしている壮介を見て、明人はおおよその事情を察したらしかった。聖が、顔をしかめる。
「いいから、早く連れて行ってくれ。お前のとこの社員だろう」
「はいはい……。じゃあ中森さん、ご迷惑をおかけしました。村越壮介については、HOTELブランの方で責任を持って処分しますので」
明人は改めて瑞紀の方に向き直ると、深々とお辞儀をした。瑞紀も、慌てて頭を下げる。明人は、聖をチラと見た。
「……それから聖、そろそろ素直になったら? 忍さんも、許してくれるよ」
(忍って……?)
瑞紀は、思わず聖の顔を見ていた。順一の言っていた、亡くなったという大切な人だろうか。
「余計なことを言うな」
聖は、気まずそうな表情を浮かべると、明人をにらんだ。ハイハイと肩をすくめると、明人は、秘書に壮介をつかまえさせ、三人で去って行った。
「親父から、小田桐って名字を聞いた時は、まさかと思ったが。本物の、小田桐ホールディングスの御曹司とはな……。釣り合うとでも、本気で思ってんのか!」
壮介は、聖の方に向き直った。
「小田桐の坊ちゃん。この瑞紀は、とんでもない淫乱ですよ。高校時代、こいつは俺の家に同居してました。毎日、俺とやりまくってたんです。それだけじゃない。進学もしないで、就いた仕事は売り専……」
次の瞬間、バシン、と鈍い音がした。瑞紀は、信じられない思いで目の前の光景を眺めていた。聖が、壮介を張り倒したのだ。
「な……、何だよ……」
壮介は、唖然とした表情で、聖を見上げた。口の中を切ったのか、唇からは血が滴っている。
「本当のことを言っただけだろ! HOTELブランなんか、もう辞めてやる。怖いもんは無い……」
「お前がどこに転職しようが、突き止めて素行をばらしてやろう。お前が、瑞紀にしたようにな」
聖が吐き捨てるように言うと、壮介はぐっと詰まった。聖は、そんな壮介の胸ぐらをつかむと、怒鳴りつけた。
「もう一度瑞紀を侮辱したら、命は無いものと思え!」
その声は、バー内に響き渡った。ぽつぽつと居た客たちが、何事かとこちらを見る。スタッフたちは、恐る恐るといった様子で近寄って来た。
「失礼しました」
聖は、スタッフらに短く謝罪すると、胸ポケットから財布を取り出した。目を見張るほどの厚さの札束を取り出し、彼らに押し付ける。
「お詫びにもならないでしょうが、こちらにいらっしゃるお客様たちに、お好みの酒をご提供ください。余ったら、あなた方へのチップということで。騒がしくして、申し訳ありませんでした」
スタッフたちは、まだ戸惑いの色を残しつつも、頬を緩めて札束を受け取った。そこへ、パタパタと足音がした。明人が戻って来たのだ。秘書らしき大柄な男を従えている。
「聖、どうしたの?」
「村越が瑞紀さんを侮辱したので、たしなめていたんだ。もう退職するつもりらしく、でたらめをまくし立てている。決して、信用しないようにな」
瑞紀の名誉を守ってくれるつもりだろう、聖は後半を強調した。明人は真剣な表情でうなずいていたが、ふと微笑んだ。
「了解。……けど聖、どんなたしなめ方をしたのさ? 僕のことを言えないんじゃない?」
頬を腫らしている壮介を見て、明人はおおよその事情を察したらしかった。聖が、顔をしかめる。
「いいから、早く連れて行ってくれ。お前のとこの社員だろう」
「はいはい……。じゃあ中森さん、ご迷惑をおかけしました。村越壮介については、HOTELブランの方で責任を持って処分しますので」
明人は改めて瑞紀の方に向き直ると、深々とお辞儀をした。瑞紀も、慌てて頭を下げる。明人は、聖をチラと見た。
「……それから聖、そろそろ素直になったら? 忍さんも、許してくれるよ」
(忍って……?)
瑞紀は、思わず聖の顔を見ていた。順一の言っていた、亡くなったという大切な人だろうか。
「余計なことを言うな」
聖は、気まずそうな表情を浮かべると、明人をにらんだ。ハイハイと肩をすくめると、明人は、秘書に壮介をつかまえさせ、三人で去って行った。
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