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第二章 俳優への一歩

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 順一は、そんな瑞紀を見て、クスクス笑った。

「そんなに驚かないで。俺は、聖の親父さんが外に作った子なのよ。でも認知はしてもらってるし、系列の会社で働かせてもらってる。『小田桐メディア企画』って知ってる?」
「あ、はい。お名前は存じてます」

 大手の広告代理店だ。洒落た雰囲気はそのせいか、と瑞紀は納得した。

「てことで、聖とは気心知れた仲だから。俺とも仲良くしてよね、瑞紀ちゃん」

 順一が、馴れ馴れしく手を差し出してくる。ためらいながらも応えようとした瑞紀だったが、その手は寸前で押し止められた。聖だった。

「オメガの人に、不用意にボディタッチするもんじゃない。アルファなら、わきまえろ」

 そう言う聖の口調は、静かながら迫力を帯びている気がして、瑞紀は思わず彼の顔を見ていた。順一も、肩をすくめる。

「おー、怖。何、もしかして聖、瑞紀ちゃんと付き合ってんの? 俺のに手を出すな的な?」
「違う」

  聖は、きっぱりと答えた。
 
「お前の言動がセクハラに当たりそうだったから、注意しただけだ。他意は無い」
「怪しいな」

 順一は、にやっとした。

「じゃあ、紳士的に振る舞えば、俺が瑞紀ちゃんを誘うのもOKなわけ?」

 ドキリ、として瑞紀は聖の反応を見守った。数秒の後、聖はうなずいた。

「ああ。僕と瑞紀さんは、関係は無いからな」

 鉛を投げ込まれたかのように、心が重く沈んでいく。一方順一は、嬉々とした様子で名刺を取り出した。サラサラと、何やら書き付ける。

「じゃ、お許しが出たから、連絡先渡しとくね。プライベートの携帯番号も書いといたから」

 半ば強引に、瑞紀の手に名刺を握らせた後、順一はもう一度にやりとした。

「じゃ、俺は戸川さんとこ行くから。……聖、格好付けちゃって、後で後悔しても知らないからな」

 順一が、さっさと歩き去って行く。聖もまた、無言で玄関へ向かって歩き出した。さすがに呼び止める勇気は無く、瑞紀はその場に立ち尽くしたのだった。
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