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20 墓前の誓い
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数日後、フェルナンとヴィクトルは、王家の墓地に来ていた。ここには、マチアスが眠っているのだ。
『マチアス兄上。兄上を殺めた者たちは、全て断罪されましたぞ』
フェルナンは、墓前に語りかけた。
『イザークもジョルジュも、頑張っております。マルソーがいなくなって、強引な採鉱も無くなりました。兄上が望んでおられた、レスティリアの自然保持が実現できそうです』
そして、とフェルナンは続けた。
『私はいずれ、国王となります。その暁には、兄上が描いておられたような、素晴らしい国作りをしてみせます。私の大切なパートナーの、ヴィクトルと共に……』
フェルナンは、かたわらのヴィクトルの手をぎゅっと握りしめた。さすがに同性婚は、アンリ三世もまだ認めていない。だがジョルジュは、将来跡継ぎとして、自分の子を養子に差し出すと宣言した。国民からも賛同の声が上がっており、承認される日は、そう遠くなさそうだ。
最後に一礼すると、フェルナンは墓を後にした。ヴィクトルが尋ねる。
「十分にお話しできましたか」
「ああ。兄上に、お誓いしたぞ。このレスティリアを、素晴らしい国にするとな」
するとヴィクトルは、満足そうな表情を浮かべた。
「フェルナン殿下は、日に日に頼もしくなっていらっしゃいますな」
「そうであろうか」
ええ、と彼は頷いた。
「サブだと知れた後、あなたの態度はずっと堂々たるものでした。王族会議の場でも、トロハイアでも。あの時、朦朧とはしておりましたが、あなたと精霊の会話は聞こえておりました。次期国王にふさわしい、立派な振る舞いだと思いましたよ」
「それは、お前のおかげだな」
フェルナンは微笑んだ。
「いつかお前は、こうコマンドしたではないか。『自信を持ちなさい』と。あのコマンドに、僕はずっと従ってきたんだ……」
ヴィクトルが、目を見開く。彼は、フェルナンの頭をそっと撫でてくれた。
「それは素晴らしい。あなたは、理想的なサブでいらっしゃいますね」
プレイ中でもないのに、ふわりと歓喜の情が湧き上がった。
「それを言うなら、お前は理想的なドムではないか。僕が求めているコマンドをくれる……」
ふと視線がぶつかり、フェルナンは慌てて逸らした。ヴィクトルのベルトに光るサファイアに、目が留まる。プレイの誘いであるこの合図は、今も継続しているのだ。
(今夜は、どんなコマンドをされるのだろうか……)
一瞬そんな不埒な想像をしてしまい、ここが兄の墓前だったと思い出す。だがヴィクトルは、そんなフェルナンの思いに気付いたようだった。
「どうしたのです? サファイアを凝視なさって。それほど、今夜が待ち遠しいのですか?」
「ばっ……、馬鹿。兄上の前で、何てことを言うんだ!」
フェルナンは、真っ赤になった。
「ベルトを見ていただけだ! えーと、これのおかげで、お前は命拾いしたのだな、と」
急所が外れている、とカルノーはあの時言っていた。それは、ベルトに阻まれたからだったのだ。
「命拾いしたのは、あなたが精霊を呼び出してくださったからですが……。でも、そうも思いたいですね。何せ、私の宝物でございますから」
「……? そうなのか?」
何気なく答えたフェルナンだったが、ヴィクトルは眉をひそめた。
「フェルナン様? まさか、これもお忘れではございませんでしょうな? このベルトは、あなたが八歳の時、誕生日プレゼントとして私にくださったものですよ?」
『マチアス兄上。兄上を殺めた者たちは、全て断罪されましたぞ』
フェルナンは、墓前に語りかけた。
『イザークもジョルジュも、頑張っております。マルソーがいなくなって、強引な採鉱も無くなりました。兄上が望んでおられた、レスティリアの自然保持が実現できそうです』
そして、とフェルナンは続けた。
『私はいずれ、国王となります。その暁には、兄上が描いておられたような、素晴らしい国作りをしてみせます。私の大切なパートナーの、ヴィクトルと共に……』
フェルナンは、かたわらのヴィクトルの手をぎゅっと握りしめた。さすがに同性婚は、アンリ三世もまだ認めていない。だがジョルジュは、将来跡継ぎとして、自分の子を養子に差し出すと宣言した。国民からも賛同の声が上がっており、承認される日は、そう遠くなさそうだ。
最後に一礼すると、フェルナンは墓を後にした。ヴィクトルが尋ねる。
「十分にお話しできましたか」
「ああ。兄上に、お誓いしたぞ。このレスティリアを、素晴らしい国にするとな」
するとヴィクトルは、満足そうな表情を浮かべた。
「フェルナン殿下は、日に日に頼もしくなっていらっしゃいますな」
「そうであろうか」
ええ、と彼は頷いた。
「サブだと知れた後、あなたの態度はずっと堂々たるものでした。王族会議の場でも、トロハイアでも。あの時、朦朧とはしておりましたが、あなたと精霊の会話は聞こえておりました。次期国王にふさわしい、立派な振る舞いだと思いましたよ」
「それは、お前のおかげだな」
フェルナンは微笑んだ。
「いつかお前は、こうコマンドしたではないか。『自信を持ちなさい』と。あのコマンドに、僕はずっと従ってきたんだ……」
ヴィクトルが、目を見開く。彼は、フェルナンの頭をそっと撫でてくれた。
「それは素晴らしい。あなたは、理想的なサブでいらっしゃいますね」
プレイ中でもないのに、ふわりと歓喜の情が湧き上がった。
「それを言うなら、お前は理想的なドムではないか。僕が求めているコマンドをくれる……」
ふと視線がぶつかり、フェルナンは慌てて逸らした。ヴィクトルのベルトに光るサファイアに、目が留まる。プレイの誘いであるこの合図は、今も継続しているのだ。
(今夜は、どんなコマンドをされるのだろうか……)
一瞬そんな不埒な想像をしてしまい、ここが兄の墓前だったと思い出す。だがヴィクトルは、そんなフェルナンの思いに気付いたようだった。
「どうしたのです? サファイアを凝視なさって。それほど、今夜が待ち遠しいのですか?」
「ばっ……、馬鹿。兄上の前で、何てことを言うんだ!」
フェルナンは、真っ赤になった。
「ベルトを見ていただけだ! えーと、これのおかげで、お前は命拾いしたのだな、と」
急所が外れている、とカルノーはあの時言っていた。それは、ベルトに阻まれたからだったのだ。
「命拾いしたのは、あなたが精霊を呼び出してくださったからですが……。でも、そうも思いたいですね。何せ、私の宝物でございますから」
「……? そうなのか?」
何気なく答えたフェルナンだったが、ヴィクトルは眉をひそめた。
「フェルナン様? まさか、これもお忘れではございませんでしょうな? このベルトは、あなたが八歳の時、誕生日プレゼントとして私にくださったものですよ?」
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