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19 最後の戦い

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 いや、そんなことが許されるわけが無い。フェルナンは、彼の手を放すと、すっくと立ち上がった。すうっと、深呼吸する。
(最後の手段だ)
 フェルナンは、周囲を見回して語りかけた。
「トロハイアに住まわれる精霊の方々よ。お姿を現してはくださらぬか」
 精霊の力を借りられるのは、王族固有の魔術だ。彼らに頼る、それしかヴィクトルを生かす手段は無いだろう。
 やがて、青い光の塊が、一つ二つと現れ始めた。騎士たちが、息を呑む。
「精霊!?」
「初めて見たぞ」
 ベイルがしっとたしなめ、彼らは慌てて口をつぐんだ。フェルナンは、精霊たちに向かって語りかけた。
「この度は、大切なトロハイアでこのような争い事を起こし、果ては血で汚してしまいました。心より、お詫び申し上げます」
 返事は、即座に返って来た。幾つもの声が、重なって響く。
『そなたが謝る必要は無いぞ』
『そう、悪いのは全てあやつら』
 そのとたん、マルソーとラヴァルを乗せた護送用の馬車が、すさまじい勢いで揺れ始めた。精霊が、次々に言葉を発する。
『金儲けのために、レスティリアの自然を壊した』
『王家の血を引かぬ者に、この国を託そうとした』
『罰を与えようぞ』
 中からは、マルソーらの壮絶な悲鳴が聞こえてくる。騎士たちは、何事かと呆然としている。一般の国民には、精霊の姿は見えても、声は聞こえないのだ。フェルナンは、必死で続けた。
「寛大にもお許しいただき、ありがとうございます。そして、勝手とは承知しておりますが、お願いがございます。このヴィクトルを、何卒お救いくだされ。彼は、このレスティリアの国王となる者なのです!」
 一瞬、精霊の言葉が途絶える。ややあって、再びひそひそという囁きが聞こえた。 
『国王……、にはならぬな』
『さよう』
 ダメなのだろうか。不安になったフェルナンだったが、ふと気付いた。ヴィクトルの出血が、止まったのだ。それどころか、おびただしく流れていた血も、徐々に消えて行く。
『だがこの者は、レスティリアの未来を支えるであろう』
『何より、次期国王の頼み。叶えぬわけにはいかぬ』
   国王、という言葉にドキリとする。だが今は、礼を述べる方が先だった。フェルナンは、ヴィクトルの体を抱きしめて、精霊たちに告げていた。
「ありがとうございます……。感謝しても、しきれませぬ」
『礼を言われるまでもない』
『たやすいことよ』
  ふふふ、という笑い声が聞こえる。腕の中のヴィクトルの体は、徐々に温かさを取り戻していく。顔にも血の気が差し始めて、フェルナンはほっと胸を撫で下ろした。
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