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19 最後の戦い

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「望むところよ!」
 ラヴァルが、ヴィクトルをにらみつける。少し離れた場所から見守っていた騎士たちは、ひいっという声を上げた。どうやら、相当強力なグレアを放ったらしい。だが、ヴィクトルに怯む様子は無かった。ラヴァルを見つめて、鼻で笑う。
「全力で、その程度か」
「な……」
「どうやら、私のフェルナン様への思いの方が、優っておったようだな」
 ヴィクトルの瞳が、これでもかというほど大きく見開かれる。
「我が最愛のフェルナン様を、何度も傷つけおって……。貴様など、何度殺しても殺したりぬわ!」
 次の瞬間、大地が震えんばかりの振動が起きた。ラヴァルが、悲鳴を上げて地面に倒れ込む。振動は、なかなか止まなかった。地面はめりめりと音を立て、木々は激しく揺れている。その木々からは、何十本の枝が折れ、散らばり落ちた。
「こんな強いグレアが存在するなど……」
 騎士たちは、呆然とした様子で首を振っている。ラヴァルはといえば、倒れたきり、ぴくりとも動かない。
「この程度に留めてやろう。痛めつけたいのはやまやまだが、死なれては困る。生き証人となってもらわねばな」
 ヴィクトルは、つかつかとラヴァルの元へ近付くと、のぞき込んだ。頷き、騎士たちに告げる。
「息はある。さすがにもうグレアを放つ余力は無いだろうが、念のため目隠しを……」
  ヴィクトルの言葉は、途中で途絶えた。次の瞬間、騎士たちがあっと声を上げる。フェルナンも、息を呑んだ。ヴィクトルの腹が、赤く染まっていたのだ。短剣がぽとりと落ち、転がる。瀕死と思われたラヴァルが、下から刺したのだ。
「凶器が……、一つと、思ったか……。グレア、では負けても、お前を殺す、こと、は……」
 ラヴァルが、息も絶え絶えに呟く。フェルナンはリシャールの制止を振り切ると、馬車から飛び出していた。
「ヴィクトル!!」
 あらん限りの声で叫びながら駆け寄ると、騎士たちは目を剥いた。
「フェルナン殿下!? なぜこちらに?」
「いいから早く手当てを! ラヴァルはさっさと連行せよ!」
 騎士たちは、ラヴァルを今度こそ馬車へと押し込めた。フェルナンは、ヴィクトルのかたわらにしゃがみ込んだ。彼は目を閉じて、ぐったりと横たわっている。腹からは大量の血が流れ出し、顔からは血の気が失われていて、フェルナンは蒼白になった。
「ヴィクトル! しっかりしろ!」
 首に巻いていたクラヴァットを外し、出血を抑えようとするが、とても間に合わない。フェルナンは、そこで思い当たった。
「カルノー殿をお呼びせよ!」
 神官なら、治療できるはずだ。すると、それに答えるように声がした。
「騒ぎを聞きつけて参りました。私にお任せくださいませ」
 騎士たちをかき分けて、カルノーがやって来る。彼は、ヴィクトルのそばにかがみ込むと、患部に手を当てた。ややあって、ヴィクトルがうっすら瞳を開けた。
「フェルナン、様……?」
「喋るな!」
 フェルナンは、悲鳴のような声を上げた。カルノーも、一緒になって叫ぶ。
「そうです、喋ってはなりませぬぞ! 急所は外れてございますが、元々の体力の消耗がひどすぎるのです」
 強力なグレアを放ったせいだろう。だが、二人の声が届いているのかいないのか、ヴィクトルはフェルナンに呼びかけるのを止めなかった。
「冷たくして、申し訳、なかった……。私、は、ラヴァルらに狙われている身。私に、近付けば……、あなたも、危険にさらすと……」
「口を利くなと言っているだろう!」
 カルノーの力を持ってしても、出血はまだ止まらない。その時、ヴィクトルの手が伸びて来た。フェルナンがその手を握ると、ヴィクトルは再び瞳を閉じた。
「愛しています、フェルナン様……。あなた、こそが次期レスティリア国王……。見届けられないの、は、残念ですが……」
「馬鹿なことを申すな! お前がそばに居ずして、国王になどなれるわけが無かろう。僕を支えると、誓ったではないか!」
 このまま、ヴィクトルは死ぬのか。
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