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19 最後の戦い
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支度をして王宮の外に出ると、ジョルジュが駆けて来た。元気そうな様子に、ほっとする。強いグレアを放って以来、彼は王立学院で一目置かれているらしいのだ。
「兄様! トロハイアへお出かけになるとか。ご一緒しても?」
「どうした、急に」
フェルナンは、リシャールの顔色をうかがった。彼は黙っているが、明らかに面白くなさそうだ。
「だって、兄様と一緒にいられるのも、あとわずかですから。少しでも、共に過ごす時間を持ちたいのです」
「弟を同行させても?」
尋ねると、リシャールは不承不承といった様子で頷いた。
「いいでしょう。……ただし、馬車は別で」
こうして一行は、トロハイアに向けて出発した。リシャールと共に馬車に乗り込むと、彼は尋ねてきた。
「私と二人になるのは、気が進みませんか」
まさか、その通りですとは言えない。否定しようとすると、彼はこう言いだした。
「弟君が行きたいと仰った時、あなたはほっとしたようなお顔をされた」
見抜かれたことに、フェルナンは焦った。
「まだ緊張しているだけです。あなたとは、その、知り合って日も浅いですし」
「長い付き合いの方なら、安心できると?」
フェルナンは少し黙ってから、かぶりを振った。
「どれだけ長く付き合いを重ねようとも、相手を理解できないことはあります。……それに、人は変わるものですし」
「私は、変わらないと誓いますがね」
リシャールは微笑んだが、フェルナンは笑みを返すことができなかった。フェルナンが疑っていると解釈したのか、彼はこう語り始めた。
「フェルナン殿下。私は、あなたの美貌だけに惹かれたわけでは無いのですよ。初対面の時、驚きました。サブでありながら、あなたは実に誇り高く、気丈に振る舞っておられた。頭も良く、根性もお持ちだ。まさに国王の伴侶にふさわしい、そう考えたのです。跡継ぎのことなら、ご心配無く。私には弟が何人もおりますから、誰かの子を迎えればよろしい」
そう言うとリシャールは、フェルナンをじっと見た。
「ご安心いただけましたか。そうであれば私としては、早くカラーをお贈りしたいのですがね」
(……あ)
確かに、当然のことだ。フェルナンを見つめながら、リシャールはにこにこしている。
「どのようなデザインがよろしいですか? 私の意見としては……、サファイアをあしらってはどうかと。あなたの瞳にぴったりだ」
「それは止めてください!」
フェルナンは、思わず大声を上げていた。予想外の反応だったのか、リシャールが気圧されたように黙り込む。フェルナンは、慌てて取りつくろった。
「失礼しました。サファイアは、あまり好きな石では無いのです」
「……そうでしたか」
納得してくれたかは不明だが、リシャールはひとまず頷いた。フェルナンは、内心思った。
(ヴィクトルから贈られたものと、同じは嫌だ……)
あのカラーは、もう外した。首元は頼りない上に、精神的にも不安を感じる。リシャールから贈られた新しいカラーを身に着ければ、また安定するのだろうか。そう考えても、フェルナンの憂鬱はなかなか晴れなかったのだった。
「兄様! トロハイアへお出かけになるとか。ご一緒しても?」
「どうした、急に」
フェルナンは、リシャールの顔色をうかがった。彼は黙っているが、明らかに面白くなさそうだ。
「だって、兄様と一緒にいられるのも、あとわずかですから。少しでも、共に過ごす時間を持ちたいのです」
「弟を同行させても?」
尋ねると、リシャールは不承不承といった様子で頷いた。
「いいでしょう。……ただし、馬車は別で」
こうして一行は、トロハイアに向けて出発した。リシャールと共に馬車に乗り込むと、彼は尋ねてきた。
「私と二人になるのは、気が進みませんか」
まさか、その通りですとは言えない。否定しようとすると、彼はこう言いだした。
「弟君が行きたいと仰った時、あなたはほっとしたようなお顔をされた」
見抜かれたことに、フェルナンは焦った。
「まだ緊張しているだけです。あなたとは、その、知り合って日も浅いですし」
「長い付き合いの方なら、安心できると?」
フェルナンは少し黙ってから、かぶりを振った。
「どれだけ長く付き合いを重ねようとも、相手を理解できないことはあります。……それに、人は変わるものですし」
「私は、変わらないと誓いますがね」
リシャールは微笑んだが、フェルナンは笑みを返すことができなかった。フェルナンが疑っていると解釈したのか、彼はこう語り始めた。
「フェルナン殿下。私は、あなたの美貌だけに惹かれたわけでは無いのですよ。初対面の時、驚きました。サブでありながら、あなたは実に誇り高く、気丈に振る舞っておられた。頭も良く、根性もお持ちだ。まさに国王の伴侶にふさわしい、そう考えたのです。跡継ぎのことなら、ご心配無く。私には弟が何人もおりますから、誰かの子を迎えればよろしい」
そう言うとリシャールは、フェルナンをじっと見た。
「ご安心いただけましたか。そうであれば私としては、早くカラーをお贈りしたいのですがね」
(……あ)
確かに、当然のことだ。フェルナンを見つめながら、リシャールはにこにこしている。
「どのようなデザインがよろしいですか? 私の意見としては……、サファイアをあしらってはどうかと。あなたの瞳にぴったりだ」
「それは止めてください!」
フェルナンは、思わず大声を上げていた。予想外の反応だったのか、リシャールが気圧されたように黙り込む。フェルナンは、慌てて取りつくろった。
「失礼しました。サファイアは、あまり好きな石では無いのです」
「……そうでしたか」
納得してくれたかは不明だが、リシャールはひとまず頷いた。フェルナンは、内心思った。
(ヴィクトルから贈られたものと、同じは嫌だ……)
あのカラーは、もう外した。首元は頼りない上に、精神的にも不安を感じる。リシャールから贈られた新しいカラーを身に着ければ、また安定するのだろうか。そう考えても、フェルナンの憂鬱はなかなか晴れなかったのだった。
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