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18 王位の行方
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一人残されたフェルナンは、しばらくの間呆然としていた。すると、ノックの音がした。フェルナンは、ぎょっとした。顔をのぞかせたのは、ヴィクトルだったのだ。
(今の話、聞かれていたか……!?)
「無作法をお許しくださいませ。失礼ながら、立ち聞きさせていただきました」
ヴィクトルは、するりと入って来ると、扉を閉める。その顔は強張っていて、フェルナンはどう説明すべきか迷った。
「ヴィクトル、その、だな……」
「いつの間に、リシャール王とお会いになったのでございますか」
「――は?」
意外な質問に、フェルナンはきょとんとした。てっきり婚姻話や、自身の王位継承について語り出すかと思ったのだが。
「前回よりも美しさが増されただの何だの、軽薄な仰り様をなさっていたではないですか、王は!」
「……それは」
フェルナンは、仕方なく白状した。ラヴァルからリシャールの来訪を聞き、慌てて向かったのだと。そうしたところ、偶然中庭で出会ってしまったのだと。話を聞くうち、ヴィクトルの表情は険しくなっていった。
「それをなぜ、私に黙っていたのでございます?」
「それは……」
言いよどむと、ヴィクトルは眉間に皺を寄せた。
「先ほどのリシャール王の態度、何やら不自然に感じます。証拠の手紙を持参するためだけに、わざわざ国王が来訪するでしょうか。そして、いくら王都で噂を耳にしたからといって、いきなり一国の王子に求婚など」
ヴィクトルは、フェルナンをじろりと見た。
「フェルナン様。何か、私に隠しておられませんか? もしやリシャール王は、あなたがサブだと、すでにご存じだったのではありませんか。ご来訪は、求婚が主目的だったのでは?」
その通りだと認めるべきか、フェルナンは迷った。うつむいていると、ヴィクトルはフェルナンの顎に指をかけ、顔を上げさせた。半ば強制的に、視線を合わせさせられる。彼の琥珀色の瞳は、葛藤で揺れているように見えた。
「正直に、仰ってくださいませ。今私は、コマンドを使いたい衝動と闘っております。そんな卑怯な手段には、出たくないのです!」
「……わかった。話す」
フェルナンは、ヴィクトルの手を振りほどいた。
「確かに前回会った時、リシャール王にサブだとバレた。顔色を良く見せようと、白粉を使ったのが裏目に出たんだ。おまけに、軽いコマンドを使われた」
「なっ……、あなたの同意も無しに、でございますか!」
ヴィクトルが、さっと顔色を変える。今すぐにでもリシャールの元へ飛んで行きそうな形相に、フェルナンはうろたえた。
「だが! 王は、非常に紳士的だったのだ。コマンドに従った後は、ちゃんと褒めてくれたし、サブだということも秘密にしてくれ……」
「それは、もはやプレイも同じではありませぬか!」
ヴィクトルが、乱暴に遮る。そして、思いがけないことを言い出すではないか。
「本当に、軽いコマンドだったのですか」
ヴィクトルの瞳には、明らかに猜疑の色が浮かんでいて、フェルナンは眉をひそめた。
「疑うのか?」
「今の今まで私に内緒にしていたということは、疚しいことがあったのではないですか。まさか、淫らな行為を……」
「ヴィクトル!」
怒鳴りつければ、ヴィクトルはさすがにハッとした顔をした。
「失礼を。言い過ぎました。ですが正直……、あなたには落胆いたしました」
最後にそう言い残すと、ヴィクトルは部屋を出て行ったのだった。
(今の話、聞かれていたか……!?)
「無作法をお許しくださいませ。失礼ながら、立ち聞きさせていただきました」
ヴィクトルは、するりと入って来ると、扉を閉める。その顔は強張っていて、フェルナンはどう説明すべきか迷った。
「ヴィクトル、その、だな……」
「いつの間に、リシャール王とお会いになったのでございますか」
「――は?」
意外な質問に、フェルナンはきょとんとした。てっきり婚姻話や、自身の王位継承について語り出すかと思ったのだが。
「前回よりも美しさが増されただの何だの、軽薄な仰り様をなさっていたではないですか、王は!」
「……それは」
フェルナンは、仕方なく白状した。ラヴァルからリシャールの来訪を聞き、慌てて向かったのだと。そうしたところ、偶然中庭で出会ってしまったのだと。話を聞くうち、ヴィクトルの表情は険しくなっていった。
「それをなぜ、私に黙っていたのでございます?」
「それは……」
言いよどむと、ヴィクトルは眉間に皺を寄せた。
「先ほどのリシャール王の態度、何やら不自然に感じます。証拠の手紙を持参するためだけに、わざわざ国王が来訪するでしょうか。そして、いくら王都で噂を耳にしたからといって、いきなり一国の王子に求婚など」
ヴィクトルは、フェルナンをじろりと見た。
「フェルナン様。何か、私に隠しておられませんか? もしやリシャール王は、あなたがサブだと、すでにご存じだったのではありませんか。ご来訪は、求婚が主目的だったのでは?」
その通りだと認めるべきか、フェルナンは迷った。うつむいていると、ヴィクトルはフェルナンの顎に指をかけ、顔を上げさせた。半ば強制的に、視線を合わせさせられる。彼の琥珀色の瞳は、葛藤で揺れているように見えた。
「正直に、仰ってくださいませ。今私は、コマンドを使いたい衝動と闘っております。そんな卑怯な手段には、出たくないのです!」
「……わかった。話す」
フェルナンは、ヴィクトルの手を振りほどいた。
「確かに前回会った時、リシャール王にサブだとバレた。顔色を良く見せようと、白粉を使ったのが裏目に出たんだ。おまけに、軽いコマンドを使われた」
「なっ……、あなたの同意も無しに、でございますか!」
ヴィクトルが、さっと顔色を変える。今すぐにでもリシャールの元へ飛んで行きそうな形相に、フェルナンはうろたえた。
「だが! 王は、非常に紳士的だったのだ。コマンドに従った後は、ちゃんと褒めてくれたし、サブだということも秘密にしてくれ……」
「それは、もはやプレイも同じではありませぬか!」
ヴィクトルが、乱暴に遮る。そして、思いがけないことを言い出すではないか。
「本当に、軽いコマンドだったのですか」
ヴィクトルの瞳には、明らかに猜疑の色が浮かんでいて、フェルナンは眉をひそめた。
「疑うのか?」
「今の今まで私に内緒にしていたということは、疚しいことがあったのではないですか。まさか、淫らな行為を……」
「ヴィクトル!」
怒鳴りつければ、ヴィクトルはさすがにハッとした顔をした。
「失礼を。言い過ぎました。ですが正直……、あなたには落胆いたしました」
最後にそう言い残すと、ヴィクトルは部屋を出て行ったのだった。
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