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18 王位の行方
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「何ですと!?」
アンリ三世が怒鳴る。だが、リシャールは落ち着き払っていた。
「我が国では、同性婚を認め始めたばかり。国王として、先陣を切りたいと思いましてな。さすれば、我が国とレスティリア王国の絆も、より強固になりますぞ?」
(何を言い出すのだ……!?)
フェルナンは、唖然とした。ドムと思っていた、と嘘を言ってくれたのは助かる。だが、妃とはどういうことだ。フェルナンは、父アンリ三世の方を見た。しばし、沈黙が続く。やがて、彼は大きく頷いた。
「悪くない話とお見受けした」
「父上!?」
フェルナンは、愕然とした。アンリ三世は、打って変わった表情でにこやかに続けた。
「いかにも、このフェルナンはサブ。国民には、これまで隠していたが……。気に入ってくださったなら、何より。是非とも、話を進めようぞ。トロハイアに手出しをしないという協定も、継続でよろしいな?」
「もちろんです」
リシャールが、即座に頷く。勝手に進んで行く話に、フェルナンは一人取り残されていた。
(父上、何を考えておられる? ヴィクトルとパートナーになったと、お伝えしたばかりなのに……)
だがアンリ三世は、大乗り気の様子だ。あげく、こんなことを言い出した。
「もしご都合がよろしければ、しばらく我が国に滞在されてはいかがか。フェルナンに、案内させたい」
「それはありがたい。是非」
リシャールは、あっさり了承してしまった。それを聞いたアンリ三世は、早速家臣を呼びつけると、リシャールの滞在先について指示した。
「では、お部屋をご案内いたしましょう」
「ご配慮感謝いたします」
リシャールは、家臣に付き添われて、あっという間に出て行ってしまった。二人きりになると、フェルナンは父に詰め寄った。
「何を考えておいでです!」
「これが最良の策と、考えたからだ」
アンリ三世は、眉間に深い皺を寄せた。
「フェルナン。確かにお前は、意欲も能力もある。だが現国王として、やはり伝統を破るわけにはいかぬのだ。お前はサブが生きやすい社会を作りたいらしいが、それは容易では無い。そして、王位を継がずにこのまま王室に残るにしても、肩身は狭いであろう。であれば、そなたを望むリシャール王の元へ行く方が、幸せというもの。トロハイアの安泰も確保できる」
そんな、とフェルナンは目を伏せた。
「ですが私は、すでにヴィクトルとパートナーになったのですよ?」
「パートナー関係は、解消せよ」
あまりの言葉に、フェルナンは絶句した。アンリ三世が、深いため息をつく。
「先ほどの王族会議。様々な意見が出たが、私はゴーチェが提案した、ヴィクトル殿が王位を継承する案が最善と思う。だが、問題は妃だ。お前とパートナー関係を継続しつつ、彼が妃を娶るのは難しいだろう」
「……納得できませぬ!」
フェルナンは、声を荒らげていた。
「私とヴィクトルは、心から愛し合っており……」
「立場を考えよ!」
フェルナンは、思わず口をつぐんでいた。父からこのように叱責されるのは、滅多に無いことだった。
「愛だの恋だので、伴侶を決められない、それが我ら王族なのだ」
そう言われると、フェルナンには返す言葉が無かった。アンリ三世の表情が、ふと歪む。
「私とてそうだ。亡き王妃のことは、ずっと愛する努力はしておった。だが、本当に愛していたのは、そなたの母だ。それは、今も変わらぬ」
「……」
「サブだと気付いてやれずに、すまなかった。そなたとナタリーには、辛い思いをさせてきたと思う。そなたを狙ったラヴァルは極刑に処し、他にも精一杯のことをしてやるゆえ、どうか許せ」
そう言ってアンリ三世は、フェルナンの頭にそっと触れた。幼子にするように数度撫でた後、彼は部屋を出て行ったのだった。
アンリ三世が怒鳴る。だが、リシャールは落ち着き払っていた。
「我が国では、同性婚を認め始めたばかり。国王として、先陣を切りたいと思いましてな。さすれば、我が国とレスティリア王国の絆も、より強固になりますぞ?」
(何を言い出すのだ……!?)
フェルナンは、唖然とした。ドムと思っていた、と嘘を言ってくれたのは助かる。だが、妃とはどういうことだ。フェルナンは、父アンリ三世の方を見た。しばし、沈黙が続く。やがて、彼は大きく頷いた。
「悪くない話とお見受けした」
「父上!?」
フェルナンは、愕然とした。アンリ三世は、打って変わった表情でにこやかに続けた。
「いかにも、このフェルナンはサブ。国民には、これまで隠していたが……。気に入ってくださったなら、何より。是非とも、話を進めようぞ。トロハイアに手出しをしないという協定も、継続でよろしいな?」
「もちろんです」
リシャールが、即座に頷く。勝手に進んで行く話に、フェルナンは一人取り残されていた。
(父上、何を考えておられる? ヴィクトルとパートナーになったと、お伝えしたばかりなのに……)
だがアンリ三世は、大乗り気の様子だ。あげく、こんなことを言い出した。
「もしご都合がよろしければ、しばらく我が国に滞在されてはいかがか。フェルナンに、案内させたい」
「それはありがたい。是非」
リシャールは、あっさり了承してしまった。それを聞いたアンリ三世は、早速家臣を呼びつけると、リシャールの滞在先について指示した。
「では、お部屋をご案内いたしましょう」
「ご配慮感謝いたします」
リシャールは、家臣に付き添われて、あっという間に出て行ってしまった。二人きりになると、フェルナンは父に詰め寄った。
「何を考えておいでです!」
「これが最良の策と、考えたからだ」
アンリ三世は、眉間に深い皺を寄せた。
「フェルナン。確かにお前は、意欲も能力もある。だが現国王として、やはり伝統を破るわけにはいかぬのだ。お前はサブが生きやすい社会を作りたいらしいが、それは容易では無い。そして、王位を継がずにこのまま王室に残るにしても、肩身は狭いであろう。であれば、そなたを望むリシャール王の元へ行く方が、幸せというもの。トロハイアの安泰も確保できる」
そんな、とフェルナンは目を伏せた。
「ですが私は、すでにヴィクトルとパートナーになったのですよ?」
「パートナー関係は、解消せよ」
あまりの言葉に、フェルナンは絶句した。アンリ三世が、深いため息をつく。
「先ほどの王族会議。様々な意見が出たが、私はゴーチェが提案した、ヴィクトル殿が王位を継承する案が最善と思う。だが、問題は妃だ。お前とパートナー関係を継続しつつ、彼が妃を娶るのは難しいだろう」
「……納得できませぬ!」
フェルナンは、声を荒らげていた。
「私とヴィクトルは、心から愛し合っており……」
「立場を考えよ!」
フェルナンは、思わず口をつぐんでいた。父からこのように叱責されるのは、滅多に無いことだった。
「愛だの恋だので、伴侶を決められない、それが我ら王族なのだ」
そう言われると、フェルナンには返す言葉が無かった。アンリ三世の表情が、ふと歪む。
「私とてそうだ。亡き王妃のことは、ずっと愛する努力はしておった。だが、本当に愛していたのは、そなたの母だ。それは、今も変わらぬ」
「……」
「サブだと気付いてやれずに、すまなかった。そなたとナタリーには、辛い思いをさせてきたと思う。そなたを狙ったラヴァルは極刑に処し、他にも精一杯のことをしてやるゆえ、どうか許せ」
そう言ってアンリ三世は、フェルナンの頭にそっと触れた。幼子にするように数度撫でた後、彼は部屋を出て行ったのだった。
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