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18 王位の行方
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翌日。フェルナンは覚悟を決めて、王宮の大広間へ赴いた。そこには、謹慎中のイザークとブリジットを除く、王族全員が集結していた。皆の顔に浮かぶ緊張の色は、未だかつて見たことが無いほどだ。
「フェルナンよ。ここへ呼ばれた理由は、承知しておるな?」
アンリ三世が、険しい表情で口火を切る。
「すでに王都では、大変な噂になっておる。……そなたがサブであるというのは、まことか」
「まことにございます」
一同が、どよめく。フェルナンは、父王の前に進み出ると、平伏した。
「国王陛下、皆様。私はサブでありながら、ドムであると、ずっと嘘をついて参りました。大変、申し訳ございませんでした」
そこへ、悲壮な声が上がった。ジョルジュだった。
「兄様は、悪くありません。コマンドを仕掛けられて、無理やり言わされたのでございます!」
「コマンドが効くということ自体、サブの証明であろうが!」
激しい怒声が上がり、失言に気付いたらしいジョルジュは、ハッとした顔をした。
「国王陛下。一体、どうなっておられるのですか。三人の王子殿下のうち、お二人もがダイナミクスを詐称されていたとは?」
高位の王族の一人が、じろりとアンリ三世の方を見る。王は、決まり悪そうな顔になった。
「ナタリー、フェルナン。偽った理由を申してみよ」
はい、とナタリーが王の前に進み出る。彼女は青ざめつつも、しっかりとした口調で答えた。
「私は、息子がサブとて、恥じるところはございません。ですが、正直に打ち明ければ、息子が辛い思いをすることもあろうかと危惧しました。ひとえに、息子を守りたい一心だったのでございます」
ナタリーは、亡き正妃に依頼されたことを口にしなかった。彼女を庇うつもりだろう。ならばそれに倣おう、とフェルナンは決意した。
「私にも、疚しい思いはございませんでした。私の夢は、亡きマチアス兄上の良き補佐役となることでした。ドムと偽ったのは、そのためでございます。そして、王位を継ごうなどという野心もございませんでした。ですが兄上があのようなことになり、私は彼の遺志を継ぎたいと考えました。レスティリア王国の豊かな自然を守り、より良き国とするため、私は王太子となる決意をしたのでございます。しかし、皆様を騙していたことは事実。改めて、深くお詫び申し上げます」
堂々と言い切ると、出席者たちは、ひそひそと囁き始めた。
「どこかの泣き落とし母子とは、大違いであることよ」
「サブとはいえ、この威厳は……」
アンリ三世が、声を張り上げる。
「静粛に。意見がある者は、こそこそせずに申してみよ」
では、と咳払いする者がいた。
「私は、フェルナン殿下に引き続き王太子を務めていただくべきかと。立太子式まで済ませた以上、取り消すのは不格好というもの。それにジョルジュ殿下も、まだ幼くていらっしゃいます」
だが、かぶりを振る者もいた。
「しかし、伝統も大事ですぞ? 我が国の国王は、代々ドム。その掟を破るなど、国内外に示しがつきませぬ。それに、ヴィルトランド・エルズアはじめ、周辺諸国の国王は全てドム。その中で、レスティリアだけがサブの国王となれば、舐められてしまいますぞ?」
ううむ、と皆黙り込んだ。
「それもそうですな。それに、万が一グレアやコマンドを使われでもしたら……」
「それはご案じなさいますな」
はっきりとした声が響き渡った。ヴィクトルだった。彼は、アンリ三世の前につかつかと進み出た。跪き、王の目を見て告げる。
「ご報告が遅れましたが、私はこの度、フェルナン殿下にカラーをお贈りしました。我々は、すでにパートナーでございます。今後殿下は、私以外のドムからの影響を受けないと存じますが、いかがでしょうか」
「フェルナンよ。ここへ呼ばれた理由は、承知しておるな?」
アンリ三世が、険しい表情で口火を切る。
「すでに王都では、大変な噂になっておる。……そなたがサブであるというのは、まことか」
「まことにございます」
一同が、どよめく。フェルナンは、父王の前に進み出ると、平伏した。
「国王陛下、皆様。私はサブでありながら、ドムであると、ずっと嘘をついて参りました。大変、申し訳ございませんでした」
そこへ、悲壮な声が上がった。ジョルジュだった。
「兄様は、悪くありません。コマンドを仕掛けられて、無理やり言わされたのでございます!」
「コマンドが効くということ自体、サブの証明であろうが!」
激しい怒声が上がり、失言に気付いたらしいジョルジュは、ハッとした顔をした。
「国王陛下。一体、どうなっておられるのですか。三人の王子殿下のうち、お二人もがダイナミクスを詐称されていたとは?」
高位の王族の一人が、じろりとアンリ三世の方を見る。王は、決まり悪そうな顔になった。
「ナタリー、フェルナン。偽った理由を申してみよ」
はい、とナタリーが王の前に進み出る。彼女は青ざめつつも、しっかりとした口調で答えた。
「私は、息子がサブとて、恥じるところはございません。ですが、正直に打ち明ければ、息子が辛い思いをすることもあろうかと危惧しました。ひとえに、息子を守りたい一心だったのでございます」
ナタリーは、亡き正妃に依頼されたことを口にしなかった。彼女を庇うつもりだろう。ならばそれに倣おう、とフェルナンは決意した。
「私にも、疚しい思いはございませんでした。私の夢は、亡きマチアス兄上の良き補佐役となることでした。ドムと偽ったのは、そのためでございます。そして、王位を継ごうなどという野心もございませんでした。ですが兄上があのようなことになり、私は彼の遺志を継ぎたいと考えました。レスティリア王国の豊かな自然を守り、より良き国とするため、私は王太子となる決意をしたのでございます。しかし、皆様を騙していたことは事実。改めて、深くお詫び申し上げます」
堂々と言い切ると、出席者たちは、ひそひそと囁き始めた。
「どこかの泣き落とし母子とは、大違いであることよ」
「サブとはいえ、この威厳は……」
アンリ三世が、声を張り上げる。
「静粛に。意見がある者は、こそこそせずに申してみよ」
では、と咳払いする者がいた。
「私は、フェルナン殿下に引き続き王太子を務めていただくべきかと。立太子式まで済ませた以上、取り消すのは不格好というもの。それにジョルジュ殿下も、まだ幼くていらっしゃいます」
だが、かぶりを振る者もいた。
「しかし、伝統も大事ですぞ? 我が国の国王は、代々ドム。その掟を破るなど、国内外に示しがつきませぬ。それに、ヴィルトランド・エルズアはじめ、周辺諸国の国王は全てドム。その中で、レスティリアだけがサブの国王となれば、舐められてしまいますぞ?」
ううむ、と皆黙り込んだ。
「それもそうですな。それに、万が一グレアやコマンドを使われでもしたら……」
「それはご案じなさいますな」
はっきりとした声が響き渡った。ヴィクトルだった。彼は、アンリ三世の前につかつかと進み出た。跪き、王の目を見て告げる。
「ご報告が遅れましたが、私はこの度、フェルナン殿下にカラーをお贈りしました。我々は、すでにパートナーでございます。今後殿下は、私以外のドムからの影響を受けないと存じますが、いかがでしょうか」
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