上 下
70 / 96
17 通じ合えた思い

2

しおりを挟む
「なっ……、何をいきなり……。本気か?」
 フェルナンは信じられない思いだったが、ヴィクトルは大真面目だった。
「こうして作らせていただいたのが、何よりの証拠。実は、今日お助けに参るのが遅れたのは、これを店に受け取りに行っていたからなのです。ラヴァルが妙な動きをしているとの情報を得て、すぐに王立学院へ向かったのですが、何分店が遠方でしたもので」
 フェルナンは、つくづくとカラーを見つめた。中央には、品の良いサファイアがあしらわれていた。
「いや、しかし……。確かにお前のパートナーになれば、他のドムの支配は受けにくくなる。だが、そんな理由でお前の人生を犠牲にするわけにはいかない」
  フェルナンは、激しくかぶりを振った。ナタリーとは添えないにしても、そんな理由で自分のパートナーにするのは、いたたまれなかった。
「お前には、真に愛する人と幸せになって欲しい……」
「私が愛しているのは、あなたです、フェルナン様」
 耳を疑った。呆然とするフェルナンの元に、ヴィクトルはにじり寄ると、そっと手を取った。
「あなたが幼少の頃より、ずっと愛おしく思っておりました。同性であること、身分の差、障害は多々ありましたが……。その矢先、あなたはサブだと判明した。ナタリー様から契約パートナーのお話をいただいた時、私はこの機会を逃すものかと思いました。例えかりそめの関係でも、あなたのパートナーでいたい、と」
 フェルナンの手を握るヴィクトルの手に、力がこもった。そして、意外なことを言い出すではないか。
「マチアス様は、私の気持ちに気付いておいででした。密かに、応援してくださっていたのです」
「兄上が?」
 フェルナンは、目を見張った。
「はい。マチアス様は、サブが胸を張って生きられる国作りを目指しておられました。フェルナン様のこともたいそう気にかけておいでで、ご即位の暁には、サブと明かせるようにと計画されていたのです。私はその折に、こうしてカラーをお贈りする予定でした」
  二人の間でそんな話があったとは、知らなかった。フェルナンは、あっけにとられた。
「ところがマチアス様が亡くなられ、あなたが王太子となられたことで、事情は一変しました。当初私が差し出がましいほどに反対したのは、もちろん詐称し続けるあなたのご苦労を慮ったからですが、私欲も正直ございました。王太子となれば、サブだと明かせないばかりか、お妃を迎えになる。それでは、私があなたを独占できないではないですか!」
 カッと、顔が熱くなる。握られた手をほどこうとしたが、ヴィクトルはますます力を込めて、放してくれない。
「否定はしておられたが、あなたはお妃となる方を気遣われて、私に別れ話を持ち出されたのでしょう? そのように他人を思いやられる優しさは、あなた様の美徳です。ですが、正直に仰ってくださいませ」
 ヴィクトルの琥珀色の瞳が、かつて無いほど真剣に見開かれる。
「あなたのお気持ちが知りたい。私を、どう思っておいでですか」
「ヴィクトル……」
 たまらなかった。フェルナンは腕を伸ばすと、ヴィクトルを抱きしめた。広い背中に、精一杯抱きつく。
「お前を愛している。僕にこのカラーを着けて、お前のパートナーにしてくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

世話焼きDomはSubを溺愛する

ルア
BL
世話を焼くの好きでDomらしくないといわれる結城はある日大学の廊下で倒れそうになっている男性を見つける。彼は三澄と言い、彼を助けるためにいきなりコマンドを出すことになった。結城はプレイ中の三澄を見て今までに抱いたことのない感情を抱く。プレイの相性がよくパートナーになった二人は徐々に距離を縮めていく。結城は三澄の世話をするごとに楽しくなり謎の感情も膨らんでいき…。最終的に結城が三澄のことを溺愛するようになります。基本的に攻め目線で進みます※Dom/Subユニバースに対して独自解釈を含みます。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...