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16 暴かれた真実
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翌日。フェルナンは執務室で、ヴィクトルと向かい合っていた。
「しかし、まさかイザークがニュートラルだったとは」
フェルナンは、しみじみとため息をついた。今日は早速、全王族を集めた緊急会議が開かれた。あれだけの証人がいては誤魔化せないと判断したのか、イザークとブリジットは渋々、ダイナミクスの詐称と、サブへの暴力行為を認めた。これにはアンリ三世はじめ、王族一同が憤った。だがブリジットの泣き落とし作戦により、母子は、一ヶ月の謹慎という軽い処分に留まったのであった。
「でもヴィクトル、なぜあの作戦を僕に黙っていた?」
「事前にお伝えしたら、殿下はどう思われましたか」
ヴィクトルは、質問を質問で返した。
「公の場で、イザーク殿下がニュートラルだと明かすことを計画中ですが、と聞かれたら」
少し考えて、フェルナンは答えた。
「複雑な気分になっただろうな。同じようにドムと偽りながら、僕だけが知らぬ顔をしていてよいものかと。正直、賛成できていたかはわからない」
「やはり、でございますか」
ヴィクトルは、にこりと笑った。
「お伝えしなかったのは、それゆえです。フェルナン殿下は、真面目で清らかなお方だ。きっと罪悪感を持たれるだろうと思いました」
「――! 清らか、など……」
フェルナンは、カッと顔が熱くなるのがわかった。
「そんなはずがあるか。であれば、皆を騙して王太子になどなるわけが無い」
「それだって、崇高な目的のためでしょう? 私欲では無い」
「……まあいい。とにかくだ」
あまり褒められると、くすぐったくて仕方ない。『本当に大切に思っておいでです』というシャガールの言葉も蘇り、フェルナンは慌てて話を逸らした。
「全てお前の計画通りと、そういうわけだな、ヴィクトル?」
するとヴィクトルは、意外にも否定した。
「全て、ではありませんな。実を言うと、私の計画は半分しか成功しなかったのでございます」
「どういうことだ?」
フェルナンは、身を乗り出した。
「確かに、イザーク殿下がニュートラルで、王位継承資格が無いと明かすことはできました。ですが、それで責任を問われたのは、殿下本人と夫人だけだったではないですか。ラヴァル殿は、処罰対象からすり抜けてしまいました」
「あ……」
確かに、その通りである。ヴィクトルは、悔しげに続けた。
「ジョルジュ殿下が余計な口を差し挟まれたせいで、予定が狂いました。本来私は、こう考えていたのです。ある程度までイザーク殿下らを追い詰めたら、譲歩しようと。グレア対決では無く、固有魔術対決を、代わりに持ちかけるつもりでした」
「王族特有の固有魔術……、なるほど、そうか!」
フェルナンは、ぽんと膝を打った。
「さよう。イザーク殿下が真にアンリ三世陛下のお子なら、王族として魔術を使えるはずです。使えないということは、すなわち国王陛下のお血を引かれていないということ。王位継承資格が無い、どころではありません。実の父であろうラヴァル殿も、共に追い込めるチャンスでした。ですから半分と申したのです」
ヴィクトルは不満げに口を尖らせているが、フェルナンは感嘆した。
「お前はさすがだ、ヴィクトル。そこまで考えていたとは思わなかった……」
「当然でございましょう」
ヴィクトルが即答する。その声音は意外にも鋭くて、フェルナンは戸惑った。
「ヴィクトル……?」
「ラヴァル殿は、あなたの襲撃を企んだ。あなたに危害を加えようとする人間を、ただで済ませるものですか!」
ヴィクトルの琥珀色の瞳は、未だかつて見たことが無いほどの怒りに満ちていて、フェルナンは思わず絶句した。
そこへ、ノックの音がした。家臣が、顔をのぞかせる。
「ヴィクトル様もご一緒でしたか。ちょうどよかった。アンリ三世陛下が、お二人にすぐに来るように、とのことでございます」
「しかし、まさかイザークがニュートラルだったとは」
フェルナンは、しみじみとため息をついた。今日は早速、全王族を集めた緊急会議が開かれた。あれだけの証人がいては誤魔化せないと判断したのか、イザークとブリジットは渋々、ダイナミクスの詐称と、サブへの暴力行為を認めた。これにはアンリ三世はじめ、王族一同が憤った。だがブリジットの泣き落とし作戦により、母子は、一ヶ月の謹慎という軽い処分に留まったのであった。
「でもヴィクトル、なぜあの作戦を僕に黙っていた?」
「事前にお伝えしたら、殿下はどう思われましたか」
ヴィクトルは、質問を質問で返した。
「公の場で、イザーク殿下がニュートラルだと明かすことを計画中ですが、と聞かれたら」
少し考えて、フェルナンは答えた。
「複雑な気分になっただろうな。同じようにドムと偽りながら、僕だけが知らぬ顔をしていてよいものかと。正直、賛成できていたかはわからない」
「やはり、でございますか」
ヴィクトルは、にこりと笑った。
「お伝えしなかったのは、それゆえです。フェルナン殿下は、真面目で清らかなお方だ。きっと罪悪感を持たれるだろうと思いました」
「――! 清らか、など……」
フェルナンは、カッと顔が熱くなるのがわかった。
「そんなはずがあるか。であれば、皆を騙して王太子になどなるわけが無い」
「それだって、崇高な目的のためでしょう? 私欲では無い」
「……まあいい。とにかくだ」
あまり褒められると、くすぐったくて仕方ない。『本当に大切に思っておいでです』というシャガールの言葉も蘇り、フェルナンは慌てて話を逸らした。
「全てお前の計画通りと、そういうわけだな、ヴィクトル?」
するとヴィクトルは、意外にも否定した。
「全て、ではありませんな。実を言うと、私の計画は半分しか成功しなかったのでございます」
「どういうことだ?」
フェルナンは、身を乗り出した。
「確かに、イザーク殿下がニュートラルで、王位継承資格が無いと明かすことはできました。ですが、それで責任を問われたのは、殿下本人と夫人だけだったではないですか。ラヴァル殿は、処罰対象からすり抜けてしまいました」
「あ……」
確かに、その通りである。ヴィクトルは、悔しげに続けた。
「ジョルジュ殿下が余計な口を差し挟まれたせいで、予定が狂いました。本来私は、こう考えていたのです。ある程度までイザーク殿下らを追い詰めたら、譲歩しようと。グレア対決では無く、固有魔術対決を、代わりに持ちかけるつもりでした」
「王族特有の固有魔術……、なるほど、そうか!」
フェルナンは、ぽんと膝を打った。
「さよう。イザーク殿下が真にアンリ三世陛下のお子なら、王族として魔術を使えるはずです。使えないということは、すなわち国王陛下のお血を引かれていないということ。王位継承資格が無い、どころではありません。実の父であろうラヴァル殿も、共に追い込めるチャンスでした。ですから半分と申したのです」
ヴィクトルは不満げに口を尖らせているが、フェルナンは感嘆した。
「お前はさすがだ、ヴィクトル。そこまで考えていたとは思わなかった……」
「当然でございましょう」
ヴィクトルが即答する。その声音は意外にも鋭くて、フェルナンは戸惑った。
「ヴィクトル……?」
「ラヴァル殿は、あなたの襲撃を企んだ。あなたに危害を加えようとする人間を、ただで済ませるものですか!」
ヴィクトルの琥珀色の瞳は、未だかつて見たことが無いほどの怒りに満ちていて、フェルナンは思わず絶句した。
そこへ、ノックの音がした。家臣が、顔をのぞかせる。
「ヴィクトル様もご一緒でしたか。ちょうどよかった。アンリ三世陛下が、お二人にすぐに来るように、とのことでございます」
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