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15 波乱の晩餐会
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主催者は終始仏頂面だったものの、フェルナンやヴィクトルらが場を盛り上げて、晩餐会はつつがなく終了した。
出席者らと一通り談笑すると、フェルナンは一人、バルコニーに出た。心地良い夜風に吹かれていると、スッと隣に立つ者がいた。シャガールだった。
「この度は、過分なお祝いをいただきまして、ありがとうございました」
彼は、恐縮した様子で礼を述べた。
「とんでもない。むしろ、謝らなければなりません。せっかくのお二人のお祝いだというのに、とんだ修羅場になりました」
「フェルナン様のせいでは無いですよ」
かぶりを振った後、シャガールは一瞬沈黙した。ややあって、思い切ったように話し出す。
「フェルナン様。私は、王族の方々専用の、プレイクラブの責任者という立場にございます。本来、顧客の秘密を漏らすのは、あってはならないこと。ですがあなたには、お耳に入れたいことがございます」
まさか、とフェルナンは身構えた。ヴィクトルのクラブ通いについてだろうか。
「ヴィクトル様の謹慎期間中、フェルナン様がクラブに来られたことがございましたね。あの時あなたは、一度帰られてから、クラブへ引き返された。その時のあなたは、様子が変でいらっしゃった」
気付かれていたのか、とフェルナンはドキリとした。
「もしや、ご覧になったのではありませんか。その……」
「ヴィクトルがクラブを利用していることですか? ならば、気にしていません」
言いよどむシャガールを遮るように、フェルナンは言った。
「僕と彼は、しょせん契約パートナーですから。彼がクラブで遊んだところで……」
「違うのです。ヴィクトル様は、プレイはなさっていません」
フェルナンは、思わずシャガールの顔を見ていた。
「お気付きでしょうが、今夜の騒動は、全てヴィクトル様が仕組まれたこと。彼がクラブへ通われていたのは、イザーク殿下に関して探るためだったのです」
シャガールの表情は、真剣だった。嘘偽りは感じられない。
「ご贔屓のサブから情報を得ようと、ヴィクトル様はニコルを指名されました。そして、ダイナミクスに関する秘密を得たというわけです。ですがその際、ヴィクトル様は彼女に指一本触れていません。多少のコマンドは使ったようですが……。これは、ニコルも認めています」
フェルナンは、呆然とした。てっきり、サブとプレイしているものと思っていたが……。
「いずれにしてもヴィクトル様は、あなた以外のサブとプレイはなさっていません。ちなみに、過去に来店されたこともありませんよ」
思わず、深いため息が漏れた。
「ヴィクトル様からは、フェルナン様が誤解されないようにと、クラブ通いについては固く口止めされていました。ですから、あの日お二人の来店が重なった時は、焦りましたよ」
シャガールは苦笑した後、フェルナンをじっと見つめた。
「ヴィクトル様は、フェルナン様のことを、本当に大切に思っておいでですな」
「そう、なのだろうか……」
契約パートナーに過ぎないというのに。彼が想っているのは、ナタリーのはずなのに。混乱していると、シャガールはこんなことを言い出した。
「ヴィクトル様、滅多に笑われないでしょう? お立場上、常に神経を尖らせてらっしゃるのでしょうが……。けれどフェルナン様の前では、よく笑顔におなりですよ」
そうだっただろうか、と思いを巡らせる。そんなフェルナンに、シャガールは念を押すように言った。
「フェルナン様は、ご自分のお気持ちに素直になるのがよろしい。私も、シャガール家存続とギョームとの間で、長らく揺れておりました。ですがこの度、勇気を出してカラーを受け取ったことで、心から幸せを感じております。あなたも、勇気を出されませ」
(勇気、か……)
そう言うシャガールの首には、上品なレザーのカラーが巻かれている。それを見つめながら、フェルナンは彼の言葉を反芻したのだった。
出席者らと一通り談笑すると、フェルナンは一人、バルコニーに出た。心地良い夜風に吹かれていると、スッと隣に立つ者がいた。シャガールだった。
「この度は、過分なお祝いをいただきまして、ありがとうございました」
彼は、恐縮した様子で礼を述べた。
「とんでもない。むしろ、謝らなければなりません。せっかくのお二人のお祝いだというのに、とんだ修羅場になりました」
「フェルナン様のせいでは無いですよ」
かぶりを振った後、シャガールは一瞬沈黙した。ややあって、思い切ったように話し出す。
「フェルナン様。私は、王族の方々専用の、プレイクラブの責任者という立場にございます。本来、顧客の秘密を漏らすのは、あってはならないこと。ですがあなたには、お耳に入れたいことがございます」
まさか、とフェルナンは身構えた。ヴィクトルのクラブ通いについてだろうか。
「ヴィクトル様の謹慎期間中、フェルナン様がクラブに来られたことがございましたね。あの時あなたは、一度帰られてから、クラブへ引き返された。その時のあなたは、様子が変でいらっしゃった」
気付かれていたのか、とフェルナンはドキリとした。
「もしや、ご覧になったのではありませんか。その……」
「ヴィクトルがクラブを利用していることですか? ならば、気にしていません」
言いよどむシャガールを遮るように、フェルナンは言った。
「僕と彼は、しょせん契約パートナーですから。彼がクラブで遊んだところで……」
「違うのです。ヴィクトル様は、プレイはなさっていません」
フェルナンは、思わずシャガールの顔を見ていた。
「お気付きでしょうが、今夜の騒動は、全てヴィクトル様が仕組まれたこと。彼がクラブへ通われていたのは、イザーク殿下に関して探るためだったのです」
シャガールの表情は、真剣だった。嘘偽りは感じられない。
「ご贔屓のサブから情報を得ようと、ヴィクトル様はニコルを指名されました。そして、ダイナミクスに関する秘密を得たというわけです。ですがその際、ヴィクトル様は彼女に指一本触れていません。多少のコマンドは使ったようですが……。これは、ニコルも認めています」
フェルナンは、呆然とした。てっきり、サブとプレイしているものと思っていたが……。
「いずれにしてもヴィクトル様は、あなた以外のサブとプレイはなさっていません。ちなみに、過去に来店されたこともありませんよ」
思わず、深いため息が漏れた。
「ヴィクトル様からは、フェルナン様が誤解されないようにと、クラブ通いについては固く口止めされていました。ですから、あの日お二人の来店が重なった時は、焦りましたよ」
シャガールは苦笑した後、フェルナンをじっと見つめた。
「ヴィクトル様は、フェルナン様のことを、本当に大切に思っておいでですな」
「そう、なのだろうか……」
契約パートナーに過ぎないというのに。彼が想っているのは、ナタリーのはずなのに。混乱していると、シャガールはこんなことを言い出した。
「ヴィクトル様、滅多に笑われないでしょう? お立場上、常に神経を尖らせてらっしゃるのでしょうが……。けれどフェルナン様の前では、よく笑顔におなりですよ」
そうだっただろうか、と思いを巡らせる。そんなフェルナンに、シャガールは念を押すように言った。
「フェルナン様は、ご自分のお気持ちに素直になるのがよろしい。私も、シャガール家存続とギョームとの間で、長らく揺れておりました。ですがこの度、勇気を出してカラーを受け取ったことで、心から幸せを感じております。あなたも、勇気を出されませ」
(勇気、か……)
そう言うシャガールの首には、上品なレザーのカラーが巻かれている。それを見つめながら、フェルナンは彼の言葉を反芻したのだった。
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