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15 波乱の晩餐会

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 来る晩餐会当日。フェルナンは、共に招待されたナタリーと一緒に、マルソー邸の応接間にいた。出席者は、高位の貴族ばかりだ。とはいえ、ヴィクトルは招待を受けていない。
「ヴィクトル様もねえ。謹慎処分とは、これまた不名誉な」
「その点、代理のラヴァル様のお仕事ぶりは、素晴らしかった! トロハイアの警備強化を、あっという間に対応されましたからな」 
 そんな囁きが聞こえて、フェルナンは苛立つのを感じた。警備強化を最初に言い出したのは、ヴィクトルだ。しかも襲撃そのものが、ラヴァルの企みらしいというのに。
 とはいえ、ラヴァル本人はこの場にいない。マルソーとは犬猿の仲という手前、招待できなかったのだろう。やや安堵したが、油断は禁物だ。
(それにしても、気品の欠片も無い空間であることよ)
 これみよがしに飾られた調度品の数々を一瞥して、フェルナンは呆れた。配色も装飾もでたらめだ。金に飽かせて、高価な品々を買いあさったという印象である。
(そしてその金は、鉱夫たちを過重労働させて得たもの……)
 それを考えて苦い気分になっていると、マルソー本人がやって来た。気持ち悪いくらいの作り笑顔を浮かべている。
「これはこれは、王太子殿下、ナタリー夫人。ようこそお越しくださいました。マチアス様亡き今、王子殿下三人で、力を合わせて行かねばなりませんからな。シャガール家、マルソー家も仲良くいたしましょう」
 ささ、とマルソーが手招きする。やって来たのは、ブリジットにイザーク、ジョルジュだった。 
「フェルナン兄様! 来てくださって嬉しいです。ナタリー様も」
 ジョルジュははしゃいでいるが、ブリジットとイザークは仏頂面だ。マルソーに促されて、イザークはようやく口を開いた。
「今宵はよろしく……」
 渋々といった様子で挨拶しかけたイザークだったが、不意に言葉が途切れた。顔には、驚愕の表情が浮かんでいる。その視線は、フェルナンの背後に注がれていた。
 何事かと振り返ると、五名の男女が応接間に入って来るところだった。そのうち四人は、フェルナンのよく知る人物だ。今夜の主賓であるシャガールとギョーム、ヴィクトル、それからアンリ三世の二番目の弟である、ゴーチエ。ヴィクトルからは、叔父にあたる。ゴーチエは、若い女性を連れていた。見知らぬ顔だが、カラーを装着しているところを見ると、パートナーのサブだろう。イザークが凝視しているのは、彼女だった。
(一体、どうしたというのだ……?) 
 不思議に思っていたフェルナンだったが、そこへマルソーの大声が響いた。
「おお、皆様。ようこそお越しくださいました」
 マルソーは愛想笑いを浮かべて彼らにすり寄ったが、ヴィクトルを見て顔をしかめた。
「だが、ヴィクトル殿をご招待した覚えはございませんぞ。失礼ですが……」
「私が是非にとお願いしたのですよ、マルソー様」
 穏やかな口調ながら遮ったのは、シャガールだった。
「ご承知の通り、私は王族の方々専用のプレイクラブを、統括する立場にございます。この度、こちらのゴーチエ様が、我がクラブのサブ従業員を身請けしてくださいましてな。ニコルと申すのですが」
 ニコルと呼ばれた女性は、ゴーチエの陰におどおどと隠れるようにしている。
「ヴィクトル様は、彼女の身請けに当たり、私とゴーチエ様の間を取り持ってくださったのです。その功労者として、本日はご同席をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」
 ゴーチエも、大きく頷いている。王弟からの無言の圧力に、マルソーは仕方ないと判断したようだった。
「かしこまりました。では、ヴィクトル殿のお席も設けさせていただくとして……」
「ちょっと待ってくれ!」
 マルソーの言葉を乱暴に遮ったのは、イザークだった。母ブリジットの制止を振り切り、五人の元へ突進して行く。
「ニコルが身請けだと? なぜ黙っていた!」
 イザークが、シャガールをにらみつける。彼は、冷静に答えた。
「私はクラブの責任者として、守秘義務がございます。たとえ王子殿下であっても、従業員の身請けについて漏らすわけには参りません」
「でも! 女のサブは、ニコルだけじゃないか。他に雇う予定は無いのかっ」
 イザークは、必死の形相でわめいている。周囲の者たちは、眉をひそめ始めた。「クラブの話をこんな場で」「はしたない」という囁きが聞こえる。フェルナンは、首をひねった。
(この狼狽ぶりは何だ……?)
 このニコルというサブがお気に入りだったのは、わかる。だが、イザークの動揺の原因は、彼女本人というより、女性のサブがいなくなることのように思えた。
「ニコルでないと、駄目なんだ。女でないと!」
 イザークは、興奮状態でわめき続けている。そこへ、割って入る声があった。ヴィクトルだった。
「イザーク殿下。それほどまでにニコル嬢にご執心とは存じず、失礼しました。このままでは、収拾が付きませんな。いかがでしょう。この際、ニコル嬢を賭けて対決する、というのは」
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