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14 浮上した敵
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今さらのこのこ姿を現すわけにもいかず、フェルナンはそのまま執務室へ戻った。ソファに腰かけて待っていると、程無くしてノックの音がする。ヴィクトルであった。
「お待たせして申し訳ありません。実は、リシャール王が来られたのでございます」
「そうか」
フェルナンは、平静を装って答えた。本人に会った話は、したくない。不本意とはいえ、リシャールとはプレイめいたことを行ってしまったのだ。『他のドムとプレイに及んだのか』と尋ねた時の、ヴィクトルの鬼気迫る形相が思い出される。素直に白状したら、どれほど逆上することだろう。
(彼だって、クラブのサブとプレイしているわけだけれど……)
驚く様子の無いフェルナンに、ヴィクトルは一瞬怪訝そうな顔をしたものの、話を続けた。
「会談は無事に終わりましたゆえ、ご心配なさいますな。詳細は、後ほどご報告いたします。まずは、殿下のケアが優先ですので」
「いや、先に報告をいたせ。気分は悪くない」
フェルナンは、ヴィクトルを促した。悔しいが、リシャールから『ご褒美』をもらったおかげで、体調はかなり回復しているのだ。それより、内容が知りたかった。
「承知いたしました」
ヴィクトルは軽く一礼すると、きびきびと語り始めた。
「リシャール王によると、ヴィルトランドでは、職の無いドムがレスティリアへと脱出するケースが相次いでいるのだそうです。例の、過激派と呼ばれる連中です。レスティリアならドムは大切にしてもらえるだろうという、期待があったようで……。ところが、そんなヴィルトランドのドムたちを集めて犯罪に利用している一味が、レスティリア内にいるようなのです。サブや弱いドムをグレアで威嚇しては、金品を奪うなどしているとか」
何と、とフェルナンは眉をひそめた。
「リシャール王は、今回の事件はそういった連中の仕業に違いないと、ピンとこられたそうで。そのためすぐに謝罪に来られたのです。自国の社会問題のせいでレスティリアに迷惑をかけたと、たいそう心を痛めておいででした。今後はダイナミクスへの理解を深めるよう国内改革をすると共に、前王に引き続き、トロハイアに関する協定を守ると宣言なさいました」
フェルナンは、ほっと胸を撫で下ろした。
「そして今回の襲撃事件に関しては、レスティリア・ヴィルトランド両国で協力して首謀者捜しをすることで決着しました。彼らの遺体は、ヴィルトランドが引き取って身元を確認するとのことです」
「わかった、ご苦労。ところで僕が欠席したことは、問題無かったのか」
「ご案じなさいますな」
ヴィクトルは即答した。
「国王のご訪問ですから、国王陛下がお迎えになるのが妥当と、私がアンリ三世陛下を説得いたしました。かえってここで王太子殿下まで加われば、下手に出すぎているように受け取られますよとお話ししたところ、スムースにご了承いただけましたよ」
「では、不自然には思われなかったのだな」
フェルナンは安堵した。
「はい。アンリ三世陛下も他の者たちも、フェルナン殿下はただ執務に没頭されていると思っておられます」
フェルナンは、おやと思った。
「体調不良と説明したのではないのか?」
「まさか。少しでもサブ性を疑われるような理由は、避けるべきです」
フェルナンは、ヴィクトルの方へ身を乗り出した。
「だがラヴァル殿は、僕の気分が優れないと聞いた、と言っていたぞ。そして僕に、リシャール王の訪問を知らせたのだ」
ヴィクトルの表情が険しくなった。
「お待たせして申し訳ありません。実は、リシャール王が来られたのでございます」
「そうか」
フェルナンは、平静を装って答えた。本人に会った話は、したくない。不本意とはいえ、リシャールとはプレイめいたことを行ってしまったのだ。『他のドムとプレイに及んだのか』と尋ねた時の、ヴィクトルの鬼気迫る形相が思い出される。素直に白状したら、どれほど逆上することだろう。
(彼だって、クラブのサブとプレイしているわけだけれど……)
驚く様子の無いフェルナンに、ヴィクトルは一瞬怪訝そうな顔をしたものの、話を続けた。
「会談は無事に終わりましたゆえ、ご心配なさいますな。詳細は、後ほどご報告いたします。まずは、殿下のケアが優先ですので」
「いや、先に報告をいたせ。気分は悪くない」
フェルナンは、ヴィクトルを促した。悔しいが、リシャールから『ご褒美』をもらったおかげで、体調はかなり回復しているのだ。それより、内容が知りたかった。
「承知いたしました」
ヴィクトルは軽く一礼すると、きびきびと語り始めた。
「リシャール王によると、ヴィルトランドでは、職の無いドムがレスティリアへと脱出するケースが相次いでいるのだそうです。例の、過激派と呼ばれる連中です。レスティリアならドムは大切にしてもらえるだろうという、期待があったようで……。ところが、そんなヴィルトランドのドムたちを集めて犯罪に利用している一味が、レスティリア内にいるようなのです。サブや弱いドムをグレアで威嚇しては、金品を奪うなどしているとか」
何と、とフェルナンは眉をひそめた。
「リシャール王は、今回の事件はそういった連中の仕業に違いないと、ピンとこられたそうで。そのためすぐに謝罪に来られたのです。自国の社会問題のせいでレスティリアに迷惑をかけたと、たいそう心を痛めておいででした。今後はダイナミクスへの理解を深めるよう国内改革をすると共に、前王に引き続き、トロハイアに関する協定を守ると宣言なさいました」
フェルナンは、ほっと胸を撫で下ろした。
「そして今回の襲撃事件に関しては、レスティリア・ヴィルトランド両国で協力して首謀者捜しをすることで決着しました。彼らの遺体は、ヴィルトランドが引き取って身元を確認するとのことです」
「わかった、ご苦労。ところで僕が欠席したことは、問題無かったのか」
「ご案じなさいますな」
ヴィクトルは即答した。
「国王のご訪問ですから、国王陛下がお迎えになるのが妥当と、私がアンリ三世陛下を説得いたしました。かえってここで王太子殿下まで加われば、下手に出すぎているように受け取られますよとお話ししたところ、スムースにご了承いただけましたよ」
「では、不自然には思われなかったのだな」
フェルナンは安堵した。
「はい。アンリ三世陛下も他の者たちも、フェルナン殿下はただ執務に没頭されていると思っておられます」
フェルナンは、おやと思った。
「体調不良と説明したのではないのか?」
「まさか。少しでもサブ性を疑われるような理由は、避けるべきです」
フェルナンは、ヴィクトルの方へ身を乗り出した。
「だがラヴァル殿は、僕の気分が優れないと聞いた、と言っていたぞ。そして僕に、リシャール王の訪問を知らせたのだ」
ヴィクトルの表情が険しくなった。
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