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13 突然の訪問者

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「――! 何を馬鹿なことを申すか!」
  一瞬絶句した後、フェルナンは男の手を振り払った。だが彼は、けろりとしている。
「ではなぜ白粉を? 我がヴィルトランドでは、サブが欲求不満状態を誤魔化す際に用います。でないと、ダイナミクス差別がひどいですからな。早く平等な社会を作らねばいけないのですが……」 
 そういう物言いをするということは、かなりの要職者なのだろうか。気になったが、今はそれどころではない。フェルナンは、必死で言い訳を探した。 
「……たまたま、睡眠不足で隈ができていただけのことだ。私は、サブなどではない」
「ほう? では、コマンドを使われても平気、というわけですな」
 男が、フェルナンを見すえる。紫色の瞳と目が合い、フェルナンはぞくりとした。
(まさかこの男は、ドムなのか)
 ヴィルトランドでは、ドムは要職どころか、まともな職に就けないと聞いていたが。まずい、と脳が危険信号を送る。だが、間に合わなかった。男が、ゆっくりと告げる。
「親愛なるレスティリアの王太子殿下よ。友好の口づけをさせていただきたい。『手を出しなさい』」
 嫌だ、と心が叫ぶ。ヴィクトル以外のコマンドになど、従いたくないというのに。だが、本能は喜んでいた。一週間、プレイはお預けだったのだ。待ちに待ったコマンドを受けて、理性はあっさりと崩れ落ちた。
「――くっ……!」
 勝手に体が動き、右手を男の前へと差し出してしまう。男は、それを見て微笑んだ。
「素直で大変よろしい。あなたはいい子ですね」
 その口調は案外優しくて、フェルナンはふわりと体が楽になるのを感じていた。
(だが……、こんな、どこの誰とも知らない、しかもヴィルトランドのドムのコマンドで喜ぶなんて……!)
「では、コマンドに従えたあなたに、ご褒美を」
 男は跪くと、差し出されたフェルナンの手の甲に口づけた。
「こんな……、褒美など、要るものかっ……!」
 屈辱で、体が震える。しかも、女性にするようなこの仕草は何だ。だが裏腹に、本能は歓喜していた。
(くそっ……!)
 その時だった。どこからか、焦ったような男たちの声が聞こえてきた。
『……様ぁ。どこにいらっしゃるんですか』
『遺体の確認は終わりました。引き取って帰りますぞ!』
 ヴィルトランドの言葉だ。どうやら、一行は帰るらしい。どうしよう、とフェルナンは焦った。リシャール王に挨拶しないといけないが、隈も暴かれたこの状態では、行くに行けない……。
『おお、このような所に!』
 不意に、大きな声が上がる。見れば、ヴィルトランドの重臣と思しき男たちが、こちらへ走って来るではないか。フェルナンは、硬直した。
(どうしよう……) 
 すると男は、まとっていたマントを不意に脱いだ。それでフェルナンの全身をすっぽり覆い、抱き寄せる。
(何……!?)
 だが抗議しようとした矢先、フェルナンの耳にこんな言葉が聞こえた。
『国王陛下。ここで、一体何をなさっておいでで!?』
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