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9 責任と罰

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  入室すると、そこには父王だけでなく、大勢の重臣が控えていた。なぜかマルソーまで加わり、中心でふんぞり返っている。ベイルは隅っこで、気まずそうな顔をしていた。 
「父上。トロハイアより、無事戻りました。精霊の方々も、私をお認めくださいましたぞ」
 何はともあれ、まずは父王に報告する。アンリ三世は、ほっとしたように頷いた。
「息災のようで、何より。まずは座るがよい」
 促され、フェルナンは父王の玉座の隣に腰かけた。ヴィクトル、ラヴァルも席へ着く。すると、大げさな咳払いが聞こえた。マルソーだった。
「無事、なものですかっ。聞けば殿下は、ヴィルトランドの連中に襲われたそうではありませんか。ああ、おいたわしや。このマルソー、心配で、昨夜は一睡もできませんでしたぞ?」 
(嘘の連発で、舌が腐りはしまいか)
 フェルナンは、本気で思った。内心では、落胆しているくせに。もしこれでフェルナンが命を落としていれば、王位継承権を得るのは、彼の孫のイザークだった。
「そのようにご心配いただいたとは、感激ですな。涙腺が緩みそうになりましたぞ」
 軽く皮肉を込めて、フェルナンはそう返した。すると、アンリ三世が早速語り始めた。
「フェルナン、お前が襲われた件だが。事の経緯は、ベイル殿から聞いた。襲撃者たちの遺体はすでに検分したが、素性はわからなかった。ただ、身分の低いならず者であることは確かだ。何者かに、雇われたのであろう」
 ここレスティリア王国では、王族にドムが多いこともあり、ドムは敬われる存在だ。だがヴィルトランドでは、ダイナミクスに対する理解が進んでおらず、ドムもサブも不気味な存在として蔑まれているのだという。そのため定職に就けず、犯罪に手を染める者も少なくないのだとか。
「全員殺してしまうからではないですかっ。ああ~、一人でも生かしておけば、雇った者が誰か、わかったかもしれませんのに!」
 マルソーが、芝居がかった口調で口を挟んでくる。彼は、ベイルをにらんだ。
「のう、ベイル殿?」
 襲撃者らを倒したのは、騎士団だということになっている。自分たちの手柄では無いと、ベイルはためらっていたが、ヴィクトルが説得したのだ。彼らの面子を保ってやりたかったのだろう。
「……それは。なかなかに強い相手でしたゆえ、こちらもつい加減できず……」
 ベイルは、気まずそうにごにょごにょと答えた。見かねたのか、ラヴァルが間に入ってくる。
「ベイル殿の仰る通りですよ。強いグレアを放たれたのですから、気を抜けばこちらがやられてしまいます。……マルソー様、人を責めてばかりいても、話は前に進みませぬぞ?」
 そこへ、静かな声が響いた。ヴィクトルだった。 
「いや、ラヴァル殿。責任の所在を明らかにするのは、重要なことですぞ」
 皆が、驚いたようにヴィクトルを見る。フェルナンもだ。ヴィクトルがマルソーの肩を持つとは、意外だった。
「アンリ三世陛下、フェルナン殿下」
 ヴィクトルは立ち上がると、二人の前に進み出た。うやうやしく跪く。
「全員を殺すようベイル殿に指示したのは、私です。おとがめは、私がお受けいたします」
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