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6 思いがけない祝福

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  聖堂での式典を終えた後は、いよいよトロハイア参拝だ。厳重な警護の下、フェルナンは馬車に乗り込んだ。
「では、参るがよい。つつがなく終えることを、祈っておるぞ」 
 父王の言葉に、フェルナンは力強く頷いた。ここからは、対象となる王族が、一人で参拝するしきたりなのだ。母ナタリーは、息子を励ますように、微笑みを浮かべている。 
「国王陛下、ナタリー様、ご心配はご無用でございます。このベイルが、必ずやフェルナン殿下をお守り申し上げます」
 警護の責任者である騎士団長のベイルは、そう言って胸を張った。数々の武芸に秀でている上、ドムでもある彼は、ヴィクトルも信頼する存在だ。アンリ三世は、重々しく頷いた。 
「うむ。頼むぞ、ベイル殿」
「もちろんでございます。では、早速……」
 ベイルが出発の指揮を執ろうとした、その時だった。人混みを縫って、ヴィクトルが現れた。いつの間にか、正装から動きやすそうなチュニックに着替え、腰には剣を携えている。
「私もお供させていただきたい」
「ヴィクトル!?」
 意外な申し出に、フェルナンは目を見張った。父王やベイルも、困惑顔だ。
「そなたが随行する必要は無かろう」
「そうでございますよ、ヴィクトル様。殿下の警護は、我々がいたします」
 彼らの当惑も、もっともだ。文官の彼では、警護役にはならない。すると、聴衆の中から高笑いが聞こえた。
「はっはっは、ヴィクトル殿。何か心得違いをされているのではないか? 頭でっかちの文官が付き添ったところで、戦力になるわけが無かろう。殿下をお守りするどころか、足手まといになるのがオチであろうが」
 マルソー伯爵であった。契約パートナーのことは知られていないにせよ、ヴィクトルとナタリーの距離が近いのは、周知の事実だ。娘ブリジットのライバルと親しいということで、マルソーはヴィクトルを、何かにつけ敵視してくるのである。
「恐れながら、マルソー様」
 ヴィクトルは、マルソーの無礼な言動に怒るでもなく、静かに答えた。
「仰る通り、私は文官。警護をさせていただこうなどとは、微塵も考えておりませぬ。それに警護役なら、この通り優秀なメンバーがそろっております」
 ヴィクトルは、ベイルをはじめとする騎士団の面々を見やった。
「私はあくまで、この立太子式という式典の責任者として、最後まで見届けたいのでございます。その辺り、くれぐれもはき違えなさいますな」
 マルソーの顔には、軽い焦燥が浮かんだ。
「し、しかしだな。何らかの有事が起きたらどうするのだ。ベイル殿たちからすれば、警護対象が二倍に増えたようなものだぞ?」
「マルソー様、私どもは構いませぬ……」
 慌てたように間に入ろうとするベイルを、ヴィクトルは制した。
「お気遣いくださいましてありがとうございます、マルソー様。ですが、その点もご安心を。いざとなりましたら、私どもドムには、強力な武器がございますから」 
  フェルナンは、思わず笑みを浮かべていた。ヴィクトルを慕っているベイルや、他の家臣たちもだ。ついにはラヴァルが、高笑いを上げた。
「はは、これはぐうの音も出ませんな、マルソー様! ニュートラルのあなたには、思いつきもしませんでしたか。グレアという概念を」
 マルソーの顔が、真っ赤に紅潮する。このレスティリア王国では、ニュートラルは要職に就けないのだ。だからマルソーは、金儲けにいそしみ、果ては娘を国王に差し出した。こうしてある程度の地位は手に入れたものの、ドムへの僻みは、未だに根強いようなのである。
「ラヴァル殿、ダイナミクスの有無で人を差別するのは慎みなされ」
 一応は部下をたしなめた後、ヴィクトルはフェルナンとベイルに向かって、「参りましょうか」と告げたのだった。

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