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5 踏み出した一歩

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「準備なら、もう整ったぞ」
「はい、完璧でいらっしゃいます……。ところで」
 ヴィクトルは扉を閉めると、声を落とした。
「立ち聞きするつもりは無かったのですが、聞いてしまいました。あまりイザーク殿下を挑発されない方がよろしいかと」
「先につっかかってきたのは向こうだ。それに、あいつの言動は目に余る」
「それはもちろん、その通りでございますが……」
 ヴィクトルは、言いづらそうに続けた。
「万が一グレアを使われたら、と私は案じているのでございます。イザーク殿下の場合、可能性が無いとは言い切れません」
 フェルナンは、ぐっと詰まった。非常時を除き、グレアは放ってはいけないのがマナーだが、モラルに欠けるイザークがそれを守るかは疑問だ。そしてもしグレアを使われれば、サブはその習性上、ドムの言いなりになってしまう。おまけに王族のドムは、他のドムとは格が違うため、グレアの強さも並ではないのだ。
「……わかった。あまり刺激しないようにする」
 渋々ながら頷くと、ヴィクトルはほっとしたような表情を浮かべた。
「それがよろしいかと。……ああ、抑制剤はお持ちですね?」
「ちゃんと携帯している」
 ヴィクトルとは昨夜もプレイをしたばかりだし、サブと露見しないための準備は万端である。
「ならば、安心でございますな」
 大きく頷いた後、ヴィクトルはしみじみとフェルナンを見つめた。
「たいそうお似合いです。王位を継がれると宣言なさった時は、正直心配申し上げましたが、こうしてあなたの晴れ姿を拝見できて、私は実に誇らしい」
「あ……、ありがとう」
 もっとも褒めて欲しかった人間からの賛辞だ。フェルナンは、赤くなるのを抑えられなかった。同時に、密かに思う。
(お前の方が、ずっと素敵ではないか)
 だが、どうしても口に出す勇気が出ない。そわそわしているフェルナンを見て、ヴィクトルは首をかしげた。
「いかがされまし……」
「何でも無い。行くぞ!」
 ヴィクトルの言葉を遮ると、フェルナンはマントを翻した。追及されないよう、大股で部屋を出て行く。それでも、顔の火照りはなかなか治まりそうになかった。
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