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5 踏み出した一歩

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 彼は、フェルナンのことは黙殺して、弟に語りかけた。
「母上がお捜しだぞ。ちょろちょろと姿を消すな」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか。それより見てください。フェルナン兄様、格好良いでしょう?」
 弟に袖を引っ張られて、イザークは仕方なさげにフェルナンを見やった。吐き捨てるように言う。
「衣装が立派なら、誰でも見栄え良く見えますね。馬子にも……、何とかだ」
 使いこなせない表現なら、わざわざ持ち出すな、とフェルナンは呆れた。
「今ジョルジュに、学問の大切さを説いていたところなのだが。お前にも、その必要がありそうだな」
 それを聞いたイザークは、目をつり上げた。
「マチアス兄上があんなことになったから、順番が回ってきただけのくせに、偉そうになさらないでください! この、棚……、棚……、えーと」
「棚ぼた、とでも言いたいのか。やはり、勉強をやり直してはどうだ?」
 フェルナンは、からからと笑った。
「ついでに言っておくが、イザーク。お前は、もう少し素行を改めろ。特に……、プレイのことだ」
 国王はじめドムの王族は、専用のクラブでパートナーを見つくろって、プレイに興じるのだ。イザークのプレイは、サブたちの間でひどく評判が悪いと聞いた。だからこその忠告だったのだが、彼はカッと頬を染めた。
「兄上に、そこまで指図されるいわれはありませんよっ」
 センシティブな部分に踏み込まれたせいだろう。イザークはヒステリックにわめくと、強引にジョルジュの手をつかんで出て行った。やれやれとため息をつくと、フェルナンは時計を確認した。そろそろ、時間である。
 すると、計ったようにノックの音がした。現れたのは、予想通りヴィクトルだった。艶やかな黒髪を後ろで一つに束ね、同じく黒を基調とした正装姿の彼は、見惚れるほどの男らしさである。
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