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4 それぞれの懸念

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  その翌日。王宮の一角にある小部屋では、四人の男が真剣な眼差しでテーブルを囲んでいた。レスティリア国王アンリ三世、次期王太子フェルナン、宰相ヴィクトル、そして宰相補佐官のラヴァル伯爵である。議題は、立太子式の進行だった。
「何分マチアス様の喪中ですから、可能な限り簡素化いたしましょう。最低限の儀式を行うに留め、恒例のパレードや宴は控えたいと存じますが、いかがでしょうか」
 ヴィクトルの提案に、アンリ三世は即座に頷いた。 
「よかろう」
 日頃からヴィクトルを信頼している国王は、基本的に全てを彼に任せる方針なのだ。だが、ヴィクトルが式次第の書類を見せると、王はやや眉をひそめた。
「トロハイア参拝も、従来通り実施するのか? いや、近頃ヴィルトランドでは、過激派による不穏な動きが見られると聞いた」
 トロハイアというのは、隣国ヴィルトランドとの境にある、レスティリア王室領の山だ。国を守る精霊が住む聖地とされており、国王の即位や立太子にあたっては、この山の頂上にある神殿を訪れて報告するのが、慣例となっていた。ここには多くの鉱物資源が眠っているが、聖地ゆえに採掘は控えるのが暗黙のルールとなっている。しかしヴィルトランドにその理屈が通用するはずも無く、彼らはこれまでに幾度と無く、戦を仕掛けてきたのである。
「これは、パレードのようなお祭り騒ぎとは種類が違います。喪中であろうとも、実施はすべき。それに、協定の存在もございます」  
 アンリ三世はヴィルトランドとの間で、トロハイアの精霊の存在を認め、手出しをしないという協定を締結したのだ。だが国王は、まだ不安げだった。 
「だがそれは、前王の代の話。リシャール王の人となりは、まだはっきりせぬ」
   ヴィルトランドでは最近、リシャールという二十三歳の新国王が即位したのだ。ドムだそうだが、それ以外にまだ情報は入って来ていない。だがヴィクトルは、自信満々だった。
「いえ、陛下。トロハイアへの参拝だけは、省略すべきではございませぬ」
 彼は、きっぱりと言い放った。
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