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2 初恋と失恋
①
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翌日の夜、フェルナンはいつもの離宮へ忍んで行った。今日ヴィクトルが身に着けていたベルトに、大きなサファイアが光っていたからだ。プレイを行う合図である。ドムやサブの欲求は、定期的に満たさねばストレスの原因となり、体調にも影響する。だからヴィクトルは、フェルナンの欲求が募ってきた時期を見計らって、こうしてプレイに誘うのだった。
人気の無い小部屋へ入ると、ヴィクトルはすでに来て待機していた。フェルナンを見て、うやうやしく一礼する。武官のような筋骨隆々さは無いものの、すらりとした長身の上に姿勢も良いせいで、その所作は絵のように様になっている。艶のある黒髪と、彫りの深い端正な顔立ちも相まって、見慣れたフェルナンですら惚れ惚れする美しさであった。
だが、ヴィクトルの切れ長の瞳は、いつにも増して鋭い光をたたえていた。まさに『鉄の宰相』の通称にふさわしい。国王の右腕とも言うべき敏腕ぶりの一方で、国や王室のためとあらば手段を選ばない冷酷さを併せ持つことから、いつしかそう呼ばれるようになったのだ。
「本当に、王位を継がれるおつもりですか」
琥珀色の瞳で真っ直ぐフェルナンを見つめながら、ヴィクトルは尋ねてきた。
「これまで通り、プレイに付き合ってもらうだけだ。……何だ、露見した場合に、巻き添えで処分をくらうのが嫌なのか?」
フェルナンは、わざと意地悪な質問をした。違うのは、わかっている。本当に保身第一なら、契約パートナーを打診された時点で、断ればいい話だ。
(それでも受諾した、のは……)
じろりとにらみつければ、ヴィクトルはやや慌てた様子でかぶりを振った。
「滅相もございません。フェルナン殿下のお相手は、これまで通り務めさせていただく所存です。……ですが、これはかなり危険な綱渡り。ナタリー様も、ひどく心配なさっています」
やはりか、とフェルナンは憂鬱な思いに駆られた。ヴィクトルは、フェルナンを心底案じているわけではない。ナタリーに言われて、念押ししただけだろう。
(そもそも、契約パートナーとなることを了承したのだって……)
あれだって、母ナタリーのたっての願いだったからに違いない。ヴィクトルとプレイをしたがるサブなど、他にいくらでもいたのだから。
そう、フェルナンは知っていた。ヴィクトルは、ナタリーに想いを寄せているのだ。もう、ずっと……。
人気の無い小部屋へ入ると、ヴィクトルはすでに来て待機していた。フェルナンを見て、うやうやしく一礼する。武官のような筋骨隆々さは無いものの、すらりとした長身の上に姿勢も良いせいで、その所作は絵のように様になっている。艶のある黒髪と、彫りの深い端正な顔立ちも相まって、見慣れたフェルナンですら惚れ惚れする美しさであった。
だが、ヴィクトルの切れ長の瞳は、いつにも増して鋭い光をたたえていた。まさに『鉄の宰相』の通称にふさわしい。国王の右腕とも言うべき敏腕ぶりの一方で、国や王室のためとあらば手段を選ばない冷酷さを併せ持つことから、いつしかそう呼ばれるようになったのだ。
「本当に、王位を継がれるおつもりですか」
琥珀色の瞳で真っ直ぐフェルナンを見つめながら、ヴィクトルは尋ねてきた。
「これまで通り、プレイに付き合ってもらうだけだ。……何だ、露見した場合に、巻き添えで処分をくらうのが嫌なのか?」
フェルナンは、わざと意地悪な質問をした。違うのは、わかっている。本当に保身第一なら、契約パートナーを打診された時点で、断ればいい話だ。
(それでも受諾した、のは……)
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「滅相もございません。フェルナン殿下のお相手は、これまで通り務めさせていただく所存です。……ですが、これはかなり危険な綱渡り。ナタリー様も、ひどく心配なさっています」
やはりか、とフェルナンは憂鬱な思いに駆られた。ヴィクトルは、フェルナンを心底案じているわけではない。ナタリーに言われて、念押ししただけだろう。
(そもそも、契約パートナーとなることを了承したのだって……)
あれだって、母ナタリーのたっての願いだったからに違いない。ヴィクトルとプレイをしたがるサブなど、他にいくらでもいたのだから。
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