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1 苦渋の決断
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その夜、フェルナンが私室に戻ると、程無くしてノックの音がした。予想通り、母ナタリーであった。
「フェルナン、あなた一体どういうつもり!?」
入室するなり、ナタリーは声を荒らげた。温和な彼女にしては、珍しいことであった。
「別に問題はございませんでしょう。これまで通り、ドムと偽り続ければよいだけです」
「これまで通り、ではないわ。立場が違いすぎます。ダイナミクスを偽って王位を得たことが露見すれば、ただではすまなくてよ!?」
ナタリーの瞳は、深い憂慮を帯びていた。その場合の、息子に下される処分を想像しているのだろう。母の心配はもっともだが、それでもフェルナンは譲れなかった。
「サブ欲求は、抑制剤と、今まで同様ヴィクトル殿とのプレイで抑えましょう。グレアだって、公式の場では用いてはいけないことになっている。それを理由に、使わなければいいだけのことです」
ドムが放つグレアには、強い威力があるため、みだりに放たないのが王族としてのマナーなのだ。
それに、自分にはドムを装えるだけの風格がある、とフェルナンは自負していた。王族としてのプライドの成せる技であろうか。昔から、周囲の者を従わせるだけの威圧感を備えていた。先ほどのブリジットの発言はでまかせにせよ、強い眼力を持っているのも確かだ。
「グレアがどうしても必要になったら、どうするのです?」
ナタリーは、しつこく食い下がる。それについては、すでに対策を考えていた。
「固有魔術を使用して誤魔化します」
ナタリーが、大きく目を見開く。固有魔術は、精霊と意思疎通することで発動できるもので、レスティリア王室に代々受け継がれている。とはいえこれもまた、みだりには使ってはいけないものだ。
「……本当に、決意が固いのね」
ナタリーは、ぽつりと言った。
「仕方ないでしょう。王位が欲しいわけではありませんが、イザークに譲る真似だけはできません」
フェルナンは、ぎりっと拳を握りしめた。
ここレスティリア王国は、豊富な鉱物資源に恵まれている。イザークの母ブリジットの父は、広い鉱山を有する領主だが、その頭には金儲けしか無いらしい。自然に配慮しない強引な採鉱や、鉱夫を劣悪な環境で労働させることで、彼の評判はひどく悪かった。イザークは、そんな祖父や母の言いなりである。彼が国王になった暁には、どれほどの自然破壊が進むか。想像しただけで恐ろしかった。
(マチアス兄上のためにも、絶対に許してはならない)
フェルナンは、大きく頷いた。亡きマチアスは、国の豊かな自然を愛しており、利益は二の次にしても環境を守りたいという思想の持ち主だった。彼に賛同するフェルナンとしては、何としてもその遺志を引き継ぎたかったのだ。
「……わかったわ。では私は、全力であなたを支えましょう」
息子の決意に根負けしたのか、ナタリーは静かにそう告げたのだった。
「フェルナン、あなた一体どういうつもり!?」
入室するなり、ナタリーは声を荒らげた。温和な彼女にしては、珍しいことであった。
「別に問題はございませんでしょう。これまで通り、ドムと偽り続ければよいだけです」
「これまで通り、ではないわ。立場が違いすぎます。ダイナミクスを偽って王位を得たことが露見すれば、ただではすまなくてよ!?」
ナタリーの瞳は、深い憂慮を帯びていた。その場合の、息子に下される処分を想像しているのだろう。母の心配はもっともだが、それでもフェルナンは譲れなかった。
「サブ欲求は、抑制剤と、今まで同様ヴィクトル殿とのプレイで抑えましょう。グレアだって、公式の場では用いてはいけないことになっている。それを理由に、使わなければいいだけのことです」
ドムが放つグレアには、強い威力があるため、みだりに放たないのが王族としてのマナーなのだ。
それに、自分にはドムを装えるだけの風格がある、とフェルナンは自負していた。王族としてのプライドの成せる技であろうか。昔から、周囲の者を従わせるだけの威圧感を備えていた。先ほどのブリジットの発言はでまかせにせよ、強い眼力を持っているのも確かだ。
「グレアがどうしても必要になったら、どうするのです?」
ナタリーは、しつこく食い下がる。それについては、すでに対策を考えていた。
「固有魔術を使用して誤魔化します」
ナタリーが、大きく目を見開く。固有魔術は、精霊と意思疎通することで発動できるもので、レスティリア王室に代々受け継がれている。とはいえこれもまた、みだりには使ってはいけないものだ。
「……本当に、決意が固いのね」
ナタリーは、ぽつりと言った。
「仕方ないでしょう。王位が欲しいわけではありませんが、イザークに譲る真似だけはできません」
フェルナンは、ぎりっと拳を握りしめた。
ここレスティリア王国は、豊富な鉱物資源に恵まれている。イザークの母ブリジットの父は、広い鉱山を有する領主だが、その頭には金儲けしか無いらしい。自然に配慮しない強引な採鉱や、鉱夫を劣悪な環境で労働させることで、彼の評判はひどく悪かった。イザークは、そんな祖父や母の言いなりである。彼が国王になった暁には、どれほどの自然破壊が進むか。想像しただけで恐ろしかった。
(マチアス兄上のためにも、絶対に許してはならない)
フェルナンは、大きく頷いた。亡きマチアスは、国の豊かな自然を愛しており、利益は二の次にしても環境を守りたいという思想の持ち主だった。彼に賛同するフェルナンとしては、何としてもその遺志を引き継ぎたかったのだ。
「……わかったわ。では私は、全力であなたを支えましょう」
息子の決意に根負けしたのか、ナタリーは静かにそう告げたのだった。
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