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プロローグ 偽りのドム王子

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 締めきったカーテンの隙間から、赤い光が細く差し込んで来る。

(日が暮れてきたか)

 力なくベッドに横たわりながら、フェルナンはぼんやり思った。だが、そんな思考は一瞬ののちに吹き飛んだ。前触れもなく、キュッと乳首を摘ままれたからだ。本能に従って躰はビクンと跳ね、快感は否応なしに高まっていく。

「あっ……、ヴィクトル、もう……」

 フェルナンは躰をねじって、背後から自分を責め苛んでいる男に、弱々しく訴えた。秘所に差し込まれた男の指は、独立した生き物のように自在に蠢き、フェルナンの内部をかき回している。……ただし、肝心な箇所は器用に避けながら。

 かろうじて顔だけ後方に向ければ、澄んだ琥珀色の瞳と目が合った。『パートナー』であるヴィクトルが、薄い微笑を浮かべる。

「もう、じゃないでしょう? いつになったら、おねだりの仕方を覚えるんです?」

 ぞっとするような冷たい眼差しは、このレスティリア王国で『鉄の宰相』と評されるだけのことはある。だがその表情ですら、今のフェルナンにとっては喜びだった。

「『言いなさい』」

 威圧するようなその口調に、脳天が痺れるほどの快感を覚える。フェルナンは、瞳を潤ませてヴィクトルに懇願した。

「イカせてください……」
「よく言えました」

 言うなりヴィクトルは、その骨張った指で、フェルナンのもっとも敏感な部分を捕らえた。

「――ああっ……」

 抉るように擦られた瞬間、フェルナンは大量の白濁を撒き散らして達していた。息が上がり、なかなか静まってくれそうにない。

「はぁっ……、ああっ……」

 すると、ヴィクトルの手がフェルナンの頭に伸びてきた。輝くようなプラチナブロンドの髪を、優しく撫でさする。その手つきは、先ほどまで寸止めを繰り返してフェルナンをいたぶっていた男のそれとは、思えなかった。

「よくできましたね。あなたは、最高にいい子だ」

 じわり、と温かいものが胸に流れ込んでくる気がした。ヴィクトルが、フェルナンの体をゆっくりと仰向けにし、放ったものをタオルで拭ってくれる。見上げると、優しく微笑みかけられ、フェルナンは言葉にし難い恍惚に浸った。

(これは、演技だ。プレイが終われば、ヴィクトルは『鉄の宰相』に戻る。単なる家臣に……)

 そしてフェルナンもまた、このレスティリア王国の第二王子の顔に戻るのだ。――ドムの仮面を着けて。そう、フェルナンはサブでありながら、ドムと偽っているのである……。
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