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8 一願(いちがん)
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「おい、馬鹿なことを言うな」
桐ケ谷は、眉を寄せた。
「でも、沖田さんも、日下親子も、それに僕の父や兄も……」
日下の息子・洋介は、あの週刊誌のスクープの後、学校に居づらくなり、自主退学したとの噂である。
そして純の父と兄二人は、何と恐喝罪で逮捕、起訴されたのである。いよいよ金に困った彼らは、純のレイプ事件を盾に、日下英介を強請りにかかったのだ。だがその点は日下の方が上手で、三人は逮捕された。手は打ってある、と桐ケ谷が言ったのは、すでにその話を知っていたからだったのだ。
「沖田や日下親子は、自業自得だろう。……こう言っちゃ何だが、お前の家族も」
桐ケ谷が、言いづらそうに言う。それでも純は、憂鬱さを拭えずにいた。
「でも……。先代の『一願さん』は、周囲の人を幸福にしたのに。僕は同じ能力があるというのに、活かせていない気がして……」
それは、純が以前から悩んでいたことだった。すると桐ケ谷は、きっぱりと言った。
「それは、お前のせいじゃない。悪いのは、お前の能力を悪用しようとする連中だ。でも、安心しろ。もうお前が利用されることはない」
桐ケ谷は、チラと純を見て笑った。
「日下英介は、間もなく逮捕される。未成年のオメガを、違法買春した罪でな」
「――ええ!? 本当ですか?」
純は仰天した。
「ああ。『レスポワール』がガサ入れされた時に、お前を買っていた客がいただろう。あの男は、未成年オメガの買春の常習犯でな。日下とも繋がりがあった。男はあの時逮捕されたんだが、日下のスキャンダルを機に、べらべらしゃべり出してな。調べたところ、日下の野郎、相当数の未成年オメガを買っていたらしい」
純は、あの時の妙な客のことを思い出した。そういえば、写真を撮らせろ、とごねていた。
「ずっと証拠集めをしていたんだが、ようやく逮捕に持って行けたぞ。これで当分ムショからは出れないだろうし、出たところで政界には復帰できんだろう」
スキャンダルが一段落ついても復活は無理だ、と桐ケ谷が断定していた理由が、ようやくわかった。純は感嘆した。
「そんなことまでしてくれていたんですね。忙しいのに……」
すると桐ケ谷は、意外なことを言い出した。
「いや、これは俺一人の手柄じゃない。強力な協力者がいたんだ」
「え、誰ですか?」
桐ケ谷は微笑んだ。
「『レスポワール』のオーナー、椎葉だ」
純は、あっと思った。
桐ケ谷は、眉を寄せた。
「でも、沖田さんも、日下親子も、それに僕の父や兄も……」
日下の息子・洋介は、あの週刊誌のスクープの後、学校に居づらくなり、自主退学したとの噂である。
そして純の父と兄二人は、何と恐喝罪で逮捕、起訴されたのである。いよいよ金に困った彼らは、純のレイプ事件を盾に、日下英介を強請りにかかったのだ。だがその点は日下の方が上手で、三人は逮捕された。手は打ってある、と桐ケ谷が言ったのは、すでにその話を知っていたからだったのだ。
「沖田や日下親子は、自業自得だろう。……こう言っちゃ何だが、お前の家族も」
桐ケ谷が、言いづらそうに言う。それでも純は、憂鬱さを拭えずにいた。
「でも……。先代の『一願さん』は、周囲の人を幸福にしたのに。僕は同じ能力があるというのに、活かせていない気がして……」
それは、純が以前から悩んでいたことだった。すると桐ケ谷は、きっぱりと言った。
「それは、お前のせいじゃない。悪いのは、お前の能力を悪用しようとする連中だ。でも、安心しろ。もうお前が利用されることはない」
桐ケ谷は、チラと純を見て笑った。
「日下英介は、間もなく逮捕される。未成年のオメガを、違法買春した罪でな」
「――ええ!? 本当ですか?」
純は仰天した。
「ああ。『レスポワール』がガサ入れされた時に、お前を買っていた客がいただろう。あの男は、未成年オメガの買春の常習犯でな。日下とも繋がりがあった。男はあの時逮捕されたんだが、日下のスキャンダルを機に、べらべらしゃべり出してな。調べたところ、日下の野郎、相当数の未成年オメガを買っていたらしい」
純は、あの時の妙な客のことを思い出した。そういえば、写真を撮らせろ、とごねていた。
「ずっと証拠集めをしていたんだが、ようやく逮捕に持って行けたぞ。これで当分ムショからは出れないだろうし、出たところで政界には復帰できんだろう」
スキャンダルが一段落ついても復活は無理だ、と桐ケ谷が断定していた理由が、ようやくわかった。純は感嘆した。
「そんなことまでしてくれていたんですね。忙しいのに……」
すると桐ケ谷は、意外なことを言い出した。
「いや、これは俺一人の手柄じゃない。強力な協力者がいたんだ」
「え、誰ですか?」
桐ケ谷は微笑んだ。
「『レスポワール』のオーナー、椎葉だ」
純は、あっと思った。
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