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7 秘めた想い

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 桐ケ谷は、純のスマホと荷物を取り返してくれた。彼の車に乗りこむと、純はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました……。すみません、別荘から出るな、と言われていたのに付いて行ってしまって」
 いや、と桐ケ谷は首を振った。
「俺の方こそ、危険な目に遭わせて悪かった。実は、沖田のことは警戒していたんだ。だからお前からは遠ざけて、あの別荘にいることも内緒にしていた。嗅ぎつけられてしまったが……」
「警戒って、どうしてですか?」
 純は目を見張った。
「週刊誌が発売になった時、沖田が見出しだけでお前と断定した、と言ったろう? 俺は、あのレイプ事件のことはあいつに話していないんだ。それなのに、どうやって知ったのか。そうしたら記事を書いたのは、何と沖田の同級生だとわかった。俺に黙ってこそこそ探るなんて……。初めて、沖田に不信感を持った。そこでその記者に接触して手を結び、あいつの動向を探ることにしたんだ」
 そういえば、電話で見出しの話をした際、桐ケ谷は何か考え込んでいる様子だった。
「しかしまさか、総理の手先になってお前を拉致するとまでは想像しなかった……。沖田は大学時代から、一番の親友だった。俺のことをあんな風に思っていたなんて、気づきもしなかったよ」
 桐ケ谷は、深いため息をついた。
「総理が選挙を前にお前を狙うだろうとは、予想していた。だが、俺は総理にひどく警戒されていたから、なかなか情報をつかめなかったんだ……。ようやくさっきの会話を入手して、お前に連絡しようとした矢先、カズが電話してきた。お前が消えた、とひどくうろたえていた。お前からはメールの返信もないし、それですぐ向かったんだ。間に合って良かった」
「カズさんにも、ご心配をかけてしまいましたね」
 純は申し訳なく思った。
「ああ。無事だった、と今連絡しておいた。安心していたよ」
「よく、さっきの倉庫の場所がわかりましたね」
 すると桐ケ谷は、思いがけないことを言った。
「ああ。お前の首輪にGPSを仕込んでおいたんだ。それをたどって来た」
 純は、思わず首輪に触れた。そういえば、別荘に移る際、付けておけと言われた。そんなものが仕込まれていたとは……。
「ありがとうございます。これのおかげですね」
 すると桐ケ谷は、チラと純を見て微笑んだ。
「ま、途中からGPSはほとんど必要なくなったがな」
「え?」
「お前の匂いをたどってきたようなものだから」
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