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5 暗雲

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 しかしそのとたん、桐ケ谷の動きは止まった。同時に、躰にかかっていた重みがなくなる。驚いて振り返れば、桐ケ谷は身体を起こしているところだった。
「悪い。乱暴な真似をしたな」
 早口でそう告げながら、桐ケ谷は素早くベッドから下りた。上半身裸のまま、ベッド脇のテーブルから注射器を取り出す。
(そんな……)
 純は呆然とした。桐ケ谷の顔は、激しくゆがんでいる。下腹部もこれ以上ないほど隆起していて、欲情しているのは確かだ。
(願い事を先に取っておくため……?)
 ぽろり、と涙がこぼれた。わかってはいる。でも自分は、そんなに魅力がないのだろうか……。
「本当に、悪かった。強引な真似をして……」
 桐ケ谷は、純の涙を誤解したらしかった。手早く自分の腕に注射すると、純にも抑制剤を差し出す。
「急なヒートだ、辛いだろう。飲めそうか?」
 純はためらった。このまま飲まずにいれば、抱いてくれるのでは。この期に及んで、そんな浅ましい考えが脳裏をよぎる。
「よしよし、飲ませてやる」
 桐ケ谷は、抑制剤を口に含むと、口づけてきた。口移しに押し込まれ、純は仕方なく嚥下した。
(僕は、卑怯だ。この人は、こんなに優しいのに……)
 桐ケ谷は純の身体を拭き清めると、元通りに服を着せてくれた。だが、中途半端に放り出された躰は燃えるように火照っている。抑制剤も、少しも効果を見せない。そんな純を見て、桐ケ谷は心配そうな顔をした。
「俺ができることは、何でもしてやるからな」
 その言葉通り、桐ケ谷は一晩中純の傍に付き添った。そして、果てなき純の欲求を手で、口で満たしてくれたのだった。
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