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二〇六〇年十月、N国T都――。
香月純は夜の街を駆けていた。午後八時を回った首都の繁華街は、多くの人であふれかえっている。大半はすでに酔っ払っており、痩せっぽちの地味な容貌の少年が一人で歩いていても、気にする者などいない。
(あった)
遙か前方に目指す場所を見つけて、純は息を詰めた。そこには、堂々たる紫色の門がそびえ立っている。その向こうからは、艶めかしいネオンの光が漏れてきていて、すでに妖しい雰囲気を醸し出していた。
誰にも見とがめられませんように、純はそう祈りながら、慎重に人混みをかき分けて進んだ。
「おい」
だが、門まであと数歩という所で、純は一人の男に腕をつかまれた。反射的に顔を上げて、純ははっとした。鋭い眼差しで純を見すえていたのは、身長百九十はあるだろう体格の良い男だった。
(よりによって、アルファに捕まるなんて……)
男女の性の他に、アルファ、ベータ、オメガという三つの性、いわゆるバース性の存在が認められるようになったのは、ここ数十年のことだ。とはいえ、人口のほとんどはごく平均的な人間・ベータが占めている。
それに対し、人口の一~二割しか存在しないにも関わらず、国を動かす特権階級であるのがアルファだ。彼らは、知力、身体能力等のあらゆる能力に秀でており、容姿も端麗な者が多い。いわば生まれながらのエリートであり、政治家や官僚は、ほぼアルファで占められている。
そして、アルファよりもさらに希少なのがオメガで、この性は男女問わず妊娠が可能である。だが、オメガの社会的地位は低い。その理由は、月に一度の発情期にある。発情期のオメガは、理性では制御しがたい性的欲求に襲われる。さらには強いフェロモンをまき散らして、アルファやベータを誘惑するのである。三年前にオメガの売春が合法化されるまでは、オメガに対するレイプや暴力事件は、後を絶たなかったものだ。
純は、この厄介とされるオメガである。十五歳になったばかりの先月、初めての発情期を迎えた。そして同時に、特殊な能力があることが判明したのだ……。
香月純は夜の街を駆けていた。午後八時を回った首都の繁華街は、多くの人であふれかえっている。大半はすでに酔っ払っており、痩せっぽちの地味な容貌の少年が一人で歩いていても、気にする者などいない。
(あった)
遙か前方に目指す場所を見つけて、純は息を詰めた。そこには、堂々たる紫色の門がそびえ立っている。その向こうからは、艶めかしいネオンの光が漏れてきていて、すでに妖しい雰囲気を醸し出していた。
誰にも見とがめられませんように、純はそう祈りながら、慎重に人混みをかき分けて進んだ。
「おい」
だが、門まであと数歩という所で、純は一人の男に腕をつかまれた。反射的に顔を上げて、純ははっとした。鋭い眼差しで純を見すえていたのは、身長百九十はあるだろう体格の良い男だった。
(よりによって、アルファに捕まるなんて……)
男女の性の他に、アルファ、ベータ、オメガという三つの性、いわゆるバース性の存在が認められるようになったのは、ここ数十年のことだ。とはいえ、人口のほとんどはごく平均的な人間・ベータが占めている。
それに対し、人口の一~二割しか存在しないにも関わらず、国を動かす特権階級であるのがアルファだ。彼らは、知力、身体能力等のあらゆる能力に秀でており、容姿も端麗な者が多い。いわば生まれながらのエリートであり、政治家や官僚は、ほぼアルファで占められている。
そして、アルファよりもさらに希少なのがオメガで、この性は男女問わず妊娠が可能である。だが、オメガの社会的地位は低い。その理由は、月に一度の発情期にある。発情期のオメガは、理性では制御しがたい性的欲求に襲われる。さらには強いフェロモンをまき散らして、アルファやベータを誘惑するのである。三年前にオメガの売春が合法化されるまでは、オメガに対するレイプや暴力事件は、後を絶たなかったものだ。
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