熱血俳優の執愛

花房ジュリー

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Side:伊織

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 村上さんと別れて出社すると、ちょうど昼休みの時間だった。上司に挨拶してから、僕は休憩室へと向かった。案の定、そこには八木さんがいた。待ち構えていたかのように、こちらへやって来る。
「昨夜は楽しめた?」
 何でも無いことのように、八木さんが言う。僕は、じろりと彼をにらみつけた。
(言いたいことがあるのなら、早く言え……)
「あー、またセクハラって言いたそうな目をしてる」
 八木さんは、クスリと笑った後、不意にその笑みを消した。威圧するような眼差しで僕を見つめながら、低く呟く。
「どうせセクハラって言われるんなら、もう一つ言っちゃおうかな……。買った指輪、着けて来ないんだね」
(――やっぱり)
 僕は、嘆息した。八木さんを、信じたかったわけではない。でも、身近にそんな人間がいるなんて、なるべくなら思いたくなかったのだ。小説の中でそんな人物を描写したこともあるが、まさか自分の周囲にもいたとは。
 黙ったままの僕に、彼はますます距離を詰めて来る。そして、耳元で囁いた。
「今度こそ、飲みに付き合ってくれるよね……? 今夜、ここではどう?」
 尋ねるというよりは、断定するように言いながら、八木さんは僕にスマホを突きつけた。とあるホテルの、バーのホームページの画面だった。僕は、一つため息をつくと、チラと彼を見上げた。
「直接、部屋でいいんじゃないですか。まだるっこい」
「話が早いな」
 八木さんが、にやりと笑う。
「じゃあそういうことで、十九時にね。部屋番号は、後で送る……。でも嬉しいよ、やっと『飲みに』付き合ってくれて」
 馴れ馴れしく背中に手を回そうとする八木さんを、僕は振り払った。肩をすくめながら、彼が去って行く。僕はもう一つため息をつくと、陽斗に宛ててメッセ―ジを送った。
『急に用ができて、会社帰りに実家に行く。帰りが遅くなっても気にしないで』
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