熱血俳優の執愛

花房ジュリー

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Side:伊織

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 その翌日。僕はあくびをかみ殺しながら、オフィスでパソコンに向かっていた。
(陽斗の撮影の方は、大丈夫だろうか……)
 僕の業務はルーチンだが、俳優なんて体調がダイレクトに影響する仕事だろう。昨夜はついつい彼のわがままを許してしまったが、今後はもっと厳しくしないとな、と思う。
 そこへ、課長の声がした。
「桐村君、大丈夫かい?」
 はっと顔を上げると、課長は心配そうにこちらを見ていた。
「昼休みは、ちゃんと休んだ方がいいよ? ただでさえ君は、二足のわらじなんだから」
 確かに時計を見ると、いつの間にやら正午を過ぎている。
(……作家活動のせいで寝不足なわけじゃ、ないんだけど)
 やや罪悪感を覚えつつ、僕は僕は課長に一礼した。
「お気遣いありがとうございます。では、休憩に行かせてもらいます」
 僕が勤めているのは、老舗の刃物メーカー『ゼーゲ』の経理部である。初代社長が珍しいナイフをヒットさせ、以来その売り上げを支えに、堅実にやってきた会社だ。とにかく安定がモットーで、新製品を開発する気も拠点を増やす気も、まるで無いようである。給料は高いとは言えないが居心地は良く、僕はそれなりに満足していた。
『お前が社会生活を営めてるって、何か不思議』
 一匹狼だった学生時代を知る陽斗は、よくそんな風にからかう。ずいぶんな言い方だ。僕だって社会人になれば、人間関係くらい築ける。それにこの会社は、良くも悪くも家庭的だ。社長はじめ社員らは、僕の作家活動を黙認している上、こうして応援までしてくれている。寛大な社風に、僕は密かに感謝していた。
 社の外に出ると、近隣の飲食店はすでに行列ができていた。出遅れたせいだろう。並ぶ気がしなかった僕は、コンビニで昼食を買い求め、社へ戻った。
 しかし、休憩室に入ったところで、僕はそれを激しく後悔した。室内には女性社員のグループの他に、一人の男性社員がいたのだ。彼は、僕を見るなり近寄って来た。
「桐村君、今日はここで食事?」
 にこやかに話しかけてきたのは、総務部人事係のという先輩社員だった。彼もまたゲイで、僕がそうであることにも、おそらく感付いている。
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