熱血俳優の執愛

花房ジュリー

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Side:陽斗

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 文化祭で陽斗のクラスは、劇をやることになっていた。実行委員兼主役だった陽斗は、たいそう熱心に取り組んだ。思えば当時から、演じることが好きだったのだろう。 
 そんなある日のことだった。予定していた練習時間を終えても満足できなかった陽斗は、時間を延長しようと提案した。ほとんどの生徒は素直に従ったが、中には渋る者もいた。塾や習い事を言い訳にする彼らに、陽斗は高圧的に迫った。
『文化祭当日まで、あと一週間しか無いんだぞ?』
 どうにか皆を説得した陽斗だったが、その中で伊織だけが一人、帰り支度を始めた。彼は、大道具を担当していた。
『待てよ。皆残って練習するんだから、付き合えよ』
 陽斗は伊織に詰め寄ったが、彼はけろりと答えた。
『僕は出演しないんだから、関係無いだろう。それに、事前に聞いていた練習時間には付き合った。これ以上、拘束される筋合いは無い』
『これは、クラスの皆で団結してやることだ。役者じゃなくたって、協力できることはあるだろう』
 他の裏方の生徒らをチラと見れば、彼らは気圧されたようにうなずいた。しかし伊織はと見れば、さっさと教室を出て行くではないか。陽斗は、カッとなった。
『おい、待て!』
 皆の前で面子を潰された悔しさから、陽斗は必死に伊織を追いかけた。彼は返事をせずに、スタスタ歩き去ると、やがて男子トイレに入った。陽斗は付いて入ると、強引に彼の肩をつかんで振り向かせた。
『おまっ……』
 そのとたん陽斗は、頭に血が上るのを感じた。伊織は、笑みを浮かべていたのだ。
『何がおかしいんだよ!』
『……いや、君があまりにも必死な顔をしてるから。初めて話した時みたいだね』
 最初の定期試験の時のことを言われたのだとわかり、陽斗は顔が熱くなった。
(この野郎……!)
 あの時どういう思考が働いたのか、自分でもわからない。おそらくは、その澄ました顔が真っ青になるところが見たい、という心理だったのだろう。
 ――陽斗は、衝動的に伊織に口づけていた。
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