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 それ以来咲子は、ますます餌やりに情熱を燃やすようになった。もはや与えるのは、残り物ではない。市販の缶詰やスナックだ。猫はどうやら、甘辛しょうゆ味が好みらしいことに、咲子は気づいていた。
 努力の甲斐あってか、猫は少しずつ、咲子に慣れてきた。その場で餌を食べないのは変わらないが、餌を取りに来るまでの時間が、短くなり始めたのだ。そしてついには、期待するようになったらしい。猫は、咲子が神社に姿を現すと、ねだるかのように遠くから「あう~」と鳴くようになった。
(もうちょっとやな。どうやったら、私の前で食べてくれるやろか……)
 あれこれ考え抜いた末、咲子は一計を案じた。猫の一番の好物である、スティック状のスナック菓子を持参したのだ。それも、大好きなバター醤油味を。 
 猫は、咲子の姿を認めると、離れた場所から「あう~」と声を上げた。咲子は、おもむろに菓子をチラつかせた。猫は相変わらず、遠くからこちらを見つめている。だがその距離も、最初に比べれば極めて短くなっていた。
「ほれほれ。美味しいで?」
 ぴらぴら、と菓子を振ってみる。猫はしばらくの間、物欲しげな目つきで菓子を凝視していたが、やがて意を決したようにこちらに向かって来た。
(やった! もう少しや……)
 咲子は、猫を脅かさないように静かに待った。猫は、おそるおそる近づいて来る。そしてとうとう、咲子の手に握られた菓子に食いついた。
(食べてくれた!)
 じん、と咲子の胸に熱いものが広がった。猫は、むしゃむしゃと菓子を食べ終えると、その場にちょんと丸くなった。咲子の胸には、さらなる感動が広がった。逃げないでいてくれるのか……。
 咲子は思い切って、猫の頭に手を伸ばした。だがそのとたん、猫は毛を逆立てると、あっという間に逃げて行った。
(あーあ、触るのはまだ早かったんかなあ……)
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