一年前の忘れ物

花房ジュリー

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エピローグ

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「カーター、リタ、レオネルも。いらっしゃい」
 玲とアレンは、三人を笑顔で出迎えた。あれから一年半の時が流れ、大学を卒業した玲は、都内の日本語学校に就職した。アレンは、今やいくつもの大学で講義を掛け持ちする人気講師だ。二人は、玲の就職を機に新しい部屋を借り、同棲生活をスタートした。カーターたちは、今日、そのお祝いに来てくれたのである。
「レイ、就職おめでとう」
「レオネルこそ。良かった、無事留学が決まって」
 あの後来日したリタの弟レオネルは、玲の日本語指導をいたく気に入ってくれた。日本語が話せるようになったことで自信がついた彼は、一念発起し、アメリカへ戻って高校卒業資格を取った。そしてこの度、見事日本への留学が決まったのである。
「レイのおかげよ」
 リタは満面の笑顔だ。弟が元気になったことで喜んだ彼女は、玲への家庭教師代をはずんでくれた。のみならず、日本語を習いたいという外国人の生徒を多数紹介してくれたのである。おかげで玲は、ホテルを辞めた後も金に困ることは無かったし、その経験は就職する上でも良いPR材料になった。
「盛り上がってるね」
 そこへ、ジュリアンがふらりと現れた。
「ジュリアン! 最近連絡が無いから、どうしたのかと思ってたんだ」
 玲は、ジュリアンの元へ駆け寄った。玲、そして倉木が辞めた後のホテルAMAMIは、天海が支配人に昇格したものの、業績は一気に傾いたらしい。さらに、天海の横暴に耐えられなくなったスタッフが次々と退職していった、という話は咲から聞いていた。ジュリアンも、その一人だ。彼はその後帰国するでもなく、バイトを転々としていたようだが、ここ最近音沙汰が無く、玲は心配していたのだ。
「うん、実は僕、この春日本の会社に就職が決まったんだよね。○○ホテル」
 さらりと告げられた名に、玲はドキリとした。それは、倉木の転職先であった。
「それって……」
「お察しのとおり、倉木サンを追いかけて行ったんだよ。追うのは得意だしね」
 アレンは複雑そうな顔をした。
「えっと……。取りあえず、おめでとう。あの、倉木さんとジュリアンって?」
「いや、まだまだ。彼、なかなかガード固いよね」
 ジュリアンはひらひらと手を振った。
「でも、最近は二人で飲みに行くこともあるよ」
 彼はにやっと笑って玲を見た。
「自分が日本人の男を好きになるなんて、夢にも思ってなかったんだけどね。レイと僕って、趣味が似てるのかもね」
「おい! お前な……」
 アレンが呆れたように言う。カーターたちは、こらえきれなくなったように噴き出した。つられて、玲も笑っていた。アレンが、ごく自然に玲を抱き寄せる。愛するパートナーと、優しい仲間に囲まれて、玲は言い様の無い幸福を感じていた。


                       本編:了(この後は番外が続きます)
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