一年前の忘れ物

花房ジュリー

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 その日玲はシフトを終えると、真っ直ぐアレンのアパートへ向かった。アレンは、憔悴した様子で玲を出迎えた。
「レイ、ごめん。ジュリアンの大学へ行って聞いて回ったが、奴の消息は分からずじまいだった」
「そのことなら、実はもう大丈夫なんだ」
「え? どういうこと?」
 玲はアレンに、ジュリアンが今日ホテルに姿を現したと告げた。
「それなら、どうして電話をくれなかったんだ! 見つけたらすぐ連絡してくれと、言ったじゃないか!」
「だって、言ったらアレン、すぐにでもホテルに乗り込んで来そうだったし」
 図星だったのか、アレンはぐっとつまった。
「ジュリアン、写真は全部消してくれたし、ホテルで働き続ける気もあるみたいだ。ジュリアンがその気なら、俺は応援したい。だから、もうこれでおしまいにしようよ?」
「消したから済むという問題じゃないだろう! あいつがやったことは犯罪だぞ? レイが何と言おうが、僕は自分で落とし前をつけないことには気が済まない」
 アレンは、怒りで肩を震わせていた。そんな彼に玲は、「頼むよ」と手を合わせた。
「ジュリアンはすごく有能で、今彼に辞められたらホテルの人たちは皆困ってしまうんだ。だから少なくとも、ホテルへ押しかけるような真似だけは止めて欲しい」
「――仕方ないな」
 アレンは不承不承といった様子で頷いた。そんな彼に、玲は咲の話をした。
「次々と心配をかけて悪いけど、あいつのことが心配で……」
「レイは、本当にいつも、他人のことを考えてばかりだな」
 アレンは呆れたように肩をすくめた。
「カーターはいい奴だが、唯一の欠点が浮気癖でね。生徒にもすぐちょっかいをかけるんだ。前は、ミツキにも手を出していたし」
「美月さんにも?」
 玲は驚いた。咲と美月が何かといがみ合うのは、そんなところに原因があったのか。
「ああ。カーターの方は、毎回ただの遊びだよ。どうせすぐに飽きて、他の女の子に目が移るさ。だからレイも、そんなに心配する必要は無いよ」
「でも、七瀬の方は、本気みたいなんだ」
「まあ、サキは一途っぽいものね」
 アレンはため息交じりに言った。
「カーターには、一応注意しておくよ。とはいえ、あの性癖は、直りそうもないけどね……」
 玲は、それでも不安が収まらなかった。
「リタに忠告しなくてもいいかな? 七瀬、すごく思いつめているっぽいんだ。リタに、何か危害でも加えたらと思って……」
「いや、それは止そう」
 アレンは、きっぱりと言った。
「リタが、僕の話に耳を貸すわけが無いから。だから言うだけ無駄だ。とにかく、カーターには話しておくから」
 それ以上何か言える雰囲気では無かった。玲は仕方なく、話を切り上げた。
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