65 / 131
不機嫌
しおりを挟む
「あー、美味しかった。アレン、ありがとう。ご馳走様でしたー」
満足といった表情で、琴音が言う。結局、パンケーキはアレンが三人分出してくれたのだ。玲は、自分と妹の分を払うと言ったが、アレンは聞かなかった。そんなアレンを、琴音は紳士を見る目でうっとりと見つめている。
「早く帰れよ。母さんが心配するだろ」
いつまでもアレンにまとわりつく琴音に苛つき、玲は声を荒げた。琴音はぷっと頬を膨らませたが、渋々鞄を手に取った。
「もう、分かったわよ。それじゃ、アレン、またね。お兄、ゴールデンウィークは帰るんだよね? またその時にねー」
琴音が帰った後、玲はアレンに謝った。
「ごめん、遅くなっちゃって」
彼女のお喋りに付き合わされたせいで、気が付けばもう夕方だ。
「これからどうする? 他に行きたいところは?」
「別に。もう帰ろう」
「でも、今日はお祝いで俺がおごるって言ってたのに。結局、琴音の分まで出してもらっちゃったし」
「プレゼントをもらったから、それで十分だよ」
アレンは静かに言った。彼の表情が暗いのが、玲は気にかかった。やはり、琴音の存在が迷惑だったのだろう。悪いことをしてしまった……。
その後の帰り道は、互いに言葉少なだった。アレンのアパート近くまで来ると、彼は不意に玲の手を握った。
「レイ、今夜は泊まっていって」
「え、でも明日はバイトで早いし……」
「いいから」
アレンは、珍しく強引な口調だった。訳が分からないまま、手を引っ張られ、部屋へ連れ込まれる。玄関に入るやいなや、アレンは玲を壁に押し付けて唇を重ねてきた。
「んっ……!」
アレンがこんな性急な行動に出るのは初めてだった。戸惑う玲をよそに、アレンは噛みつくようなキスを何度も仕掛けてくる。ようやく解放されたかと思うと、今度は首筋に吸い付かれた。
「アレン……! ダメだって!」
これから薄着になる季節だというのに、跡でも残ったらどうするのだ。身をよじって逃れようとすると、思い切り肌に歯を立てられた。玲は思わず悲鳴を上げた。
「何するんだよ!」
玲はアレンを突き飛ばすと、睨み付けた。
「何か怒ってるのか?」
「何か、だって?」
目が合い、玲ははっとした。アレンの目は、静かな怒りに燃えていた。
満足といった表情で、琴音が言う。結局、パンケーキはアレンが三人分出してくれたのだ。玲は、自分と妹の分を払うと言ったが、アレンは聞かなかった。そんなアレンを、琴音は紳士を見る目でうっとりと見つめている。
「早く帰れよ。母さんが心配するだろ」
いつまでもアレンにまとわりつく琴音に苛つき、玲は声を荒げた。琴音はぷっと頬を膨らませたが、渋々鞄を手に取った。
「もう、分かったわよ。それじゃ、アレン、またね。お兄、ゴールデンウィークは帰るんだよね? またその時にねー」
琴音が帰った後、玲はアレンに謝った。
「ごめん、遅くなっちゃって」
彼女のお喋りに付き合わされたせいで、気が付けばもう夕方だ。
「これからどうする? 他に行きたいところは?」
「別に。もう帰ろう」
「でも、今日はお祝いで俺がおごるって言ってたのに。結局、琴音の分まで出してもらっちゃったし」
「プレゼントをもらったから、それで十分だよ」
アレンは静かに言った。彼の表情が暗いのが、玲は気にかかった。やはり、琴音の存在が迷惑だったのだろう。悪いことをしてしまった……。
その後の帰り道は、互いに言葉少なだった。アレンのアパート近くまで来ると、彼は不意に玲の手を握った。
「レイ、今夜は泊まっていって」
「え、でも明日はバイトで早いし……」
「いいから」
アレンは、珍しく強引な口調だった。訳が分からないまま、手を引っ張られ、部屋へ連れ込まれる。玄関に入るやいなや、アレンは玲を壁に押し付けて唇を重ねてきた。
「んっ……!」
アレンがこんな性急な行動に出るのは初めてだった。戸惑う玲をよそに、アレンは噛みつくようなキスを何度も仕掛けてくる。ようやく解放されたかと思うと、今度は首筋に吸い付かれた。
「アレン……! ダメだって!」
これから薄着になる季節だというのに、跡でも残ったらどうするのだ。身をよじって逃れようとすると、思い切り肌に歯を立てられた。玲は思わず悲鳴を上げた。
「何するんだよ!」
玲はアレンを突き飛ばすと、睨み付けた。
「何か怒ってるのか?」
「何か、だって?」
目が合い、玲ははっとした。アレンの目は、静かな怒りに燃えていた。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
猫をかぶるにも程がある
如月自由
BL
陽キャ大学生の橘千冬には悩みがある。声フェチを拗らせすぎて、女性向けシチュエーションボイスでしか抜けなくなってしまったという悩みが。
千冬はある日、いい声を持つ陰キャ大学生・綱島一樹と知り合い、一夜の過ちをきっかけに付き合い始めることになる。自分が男を好きになれるのか。そう訝っていた千冬だったが、大好きオーラ全開の一樹にほだされ、気付かぬうちにゆっくり心惹かれていく。
しかし、弱気で優しい男に見えた一樹には、実はとんでもない二面性があって――!?
ノンケの陽キャ大学生がバリタチの陰キャ大学生に美味しく頂かれて溺愛される話。または、暗い過去を持つメンヘラクズ男が圧倒的光属性の好青年に救われるまでの話。
ムーンライトノベルズでも公開しております。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
僕はシェアされる
ミヒロ
BL
「ネコとネコ」の類の恋模様です。
イタリア人のマフィと同性婚し、はや7年。念願のイタリアンレストランをマフィと共に日本で開いた類。
従業員の光や晶の恋愛を見守ってきた類だったが、晶の推しのアイドル、奏は実は元彼。旦那もいて三十路の自分はもう恋愛に興味はなかったのだが...。
※ 過激な性描写を含みます
ご注意くださいね
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる