一年前の忘れ物

花房ジュリー

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不機嫌

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「あー、美味しかった。アレン、ありがとう。ご馳走様でしたー」
 満足といった表情で、琴音が言う。結局、パンケーキはアレンが三人分出してくれたのだ。玲は、自分と妹の分を払うと言ったが、アレンは聞かなかった。そんなアレンを、琴音は紳士を見る目でうっとりと見つめている。
「早く帰れよ。母さんが心配するだろ」
 いつまでもアレンにまとわりつく琴音に苛つき、玲は声を荒げた。琴音はぷっと頬を膨らませたが、渋々鞄を手に取った。
「もう、分かったわよ。それじゃ、アレン、またね。おにい、ゴールデンウィークは帰るんだよね? またその時にねー」
 琴音が帰った後、玲はアレンに謝った。
「ごめん、遅くなっちゃって」
 彼女のお喋りに付き合わされたせいで、気が付けばもう夕方だ。
「これからどうする? 他に行きたいところは?」
「別に。もう帰ろう」
「でも、今日はお祝いで俺がおごるって言ってたのに。結局、琴音の分まで出してもらっちゃったし」
「プレゼントをもらったから、それで十分だよ」
 アレンは静かに言った。彼の表情が暗いのが、玲は気にかかった。やはり、琴音の存在が迷惑だったのだろう。悪いことをしてしまった……。
 その後の帰り道は、互いに言葉少なだった。アレンのアパート近くまで来ると、彼は不意に玲の手を握った。
「レイ、今夜は泊まっていって」
「え、でも明日はバイトで早いし……」
「いいから」
 アレンは、珍しく強引な口調だった。訳が分からないまま、手を引っ張られ、部屋へ連れ込まれる。玄関に入るやいなや、アレンは玲を壁に押し付けて唇を重ねてきた。
「んっ……!」
 アレンがこんな性急な行動に出るのは初めてだった。戸惑う玲をよそに、アレンは噛みつくようなキスを何度も仕掛けてくる。ようやく解放されたかと思うと、今度は首筋に吸い付かれた。
「アレン……! ダメだって!」
 これから薄着になる季節だというのに、跡でも残ったらどうするのだ。身をよじって逃れようとすると、思い切り肌に歯を立てられた。玲は思わず悲鳴を上げた。
「何するんだよ!」
 玲はアレンを突き飛ばすと、睨み付けた。
「何か怒ってるのか?」
「何か、だって?」
 目が合い、玲ははっとした。アレンの目は、静かな怒りに燃えていた。
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