一年前の忘れ物

花房ジュリー

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元彼

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 それ以上見ていられず、玲はその場から走り去った。
 ――やっぱりジュリアンとは、そういう仲だった……。
 自分に囁いた数えきれないほどの愛の言葉も、優しい微笑みも、全て嘘だったというのだろうか。玲の胸は、激しい憤りで一杯になっていた。
 ――今日だって、あんな風に外で求めてきたくせに……。
 自分の躰はまだ、アレンの余韻を留めているというのに、アレンは今から、別の人間を抱くというのか。玲は、この怒りと悲しみを、どこへぶつけてよいか分からなかった。
「玲!」
 不意に名を呼ばれて、玲ははっとした。夢中で走っているうちに、いつの間にか自分のアパートに帰り着いていたのだ。
「どうかした? 何かあったのか?」
 アパートの前にいたのは、何と倉木だった。彼は、玲の表情を見て訝しんだようだった。
「別に、何も」
 玲は彼から目を逸らして答えた。
「倉木さんこそ、急にどうしたんですか?」
「万年筆を探しに来たんだよ。前にここに置いたままにしていたことを、思い出してね。少しだけ、上がらせてもらってもいいかな?」
「分かった」
 玲は仕方なく、倉木を部屋に上げた。万年筆は幸いにも、すぐに見つかった。しかし倉木は、なかなか立ち去ろうとしなかった。
「本当にどうしたの? これでは、心配で帰れないよ」
「……」
 玲は黙って首を横に振った。あんな風に倉木を切り捨てるような台詞を吐いておきながら、アレンとのことを打ち明けられるわけが無い。しかし倉木は、こう続けた。
「玲、この前言っていただろう? 自分で解決したいって。でも、辛い時は誰かに頼っていいんだよ?」
 玲は思わず、倉木の顔を見上げた。彼は真剣な表情を浮かべていた。
「しつこいと思われるのを覚悟で今日来たのは、最近の玲が、見ていられないからだ。何だか思いつめた様子だし、仕事中もぼんやりしていることが多いし……。今だって、泣きそうな顔をして……。僕でできることがあれば、力になりたいんだ」
「ありがとうございます。でも……」
「それと、もう一つ。玲に謝ろうと思って」
 玲の言葉を遮って、倉木は唐突に言った。玲は、きょとんとして彼の顔を見つめた。
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