一年前の忘れ物

花房ジュリー

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不協和音

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「英会話? 一体、いつ始めたの? 僕は初耳だけど。英会話は授業料が高いから無理って、前から言っていたじゃないか」
「――最近、安いところを見つけたから」
 玲は、言葉少なに答えた。独占欲が強いというのか、倉木には玲の行動をチェックしないと気が済まない一面があった。いつもはそれも愛情の証として心地良く感じていたが、今日は何だか不快感を覚えた。
 その後の食事は、互いに口数が少ないものとなった。倉木は後片付けを終えると、風呂へ向かった。彼が入浴している間に、玲はスマホをチェックした。
 ――来てる!
 待ち望んでいた、アレンからのメールだった。とても美味しかった、に始まり、食材や味付けについて克明に感想が述べてある。最後には、こんな一言が付け加えられていた。
『レイの作る和食が気に入ったから、また食べてみたいな。レイも、食べたいメニューがあったら僕にリクエストして』
 それを読んだ途端、玲は不思議と、体温が上昇していくのを感じていた。

 肉じゃがが成功した、と告げると咲は飛び上がってはしゃいだ。
「倉木さん、喜んでくれた?」
「――ああ」
 彼も美味しいと言ってくれたのだから、まんざら嘘では無い。
「良かったじゃん。だから言ったでしょ? 肉じゃががお勧めだって。それに男の人は、肉じゃがに弱いっていうしね」
「レシピ、助かったよ。それで、他にも教えてくれないかな。俺にも作れそうな和食」
「もちろん、いいよ! この前みたいな説明で大丈夫? 何なら、動画に撮って送ろうか?」
「いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫だから」
 咲の異常な張り切り様に、玲は思わずたじろいだ。
「じゃあ、これ、約束してた英語のCD。それとこっちは、フレーズ集」
 玲は咲へのお返しに、フロントで使う英語のフレーズをまとめてやったのだった。咲は、サンキュ、と軽く言って受け取ると、また話題を戻した。
「また、倉木さんの反応を教えてよね。あたし、本当に二人を応援してるんだから!」
 うん、と頷きながら、玲は不思議な後ろめたさを感じた。
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