一年前の忘れ物

平穏

「何か、ワンパターンでごめん。悠介さんみたいに凝ったものが作れたらいいんだけど」
　器に肉や野菜をよそいながら、玲は言い訳じみた台詞を漏らした。倉木とは逆に、玲の料理のスキルはお世辞にも高いとは言い難い。カレーやシチューの類のローテーションはさすがにまずいと思っているものの、どこかに習いに行く気もしないまま現在に至るのだ。
「玲の作るものは何でも美味しいよ」
　恥じ入る玲に対し、倉木は意に介する風も無い。これも毎度のことであった。
　食事を終えた後は、二人で後片付けをして、交代で入浴する、というお馴染みの流れが待っている。倉木が風呂を使っている間、玲はふと思い出してアレンがくれたカードを取り出した。『英会話カフェ』で検索してみると、意外に便利なシステムだということが分かった。英会話スクールとは違い、単発で気軽に参加ができるというのだ。価格は、一時間千円プラス自分の飲み物代だけだという。
　――行ってみようかな。
　その時、倉木が風呂から上がる気配がした。玲は反射的に、カードを机の引き出しにしまった。なぜ隠すような真似をしたのか、自分でも理由は分からなかった。
「ああ、いい湯だった」
「悠介さん、何だか親父くさいな」
　そうかな、と笑いながら倉木は玲に口づけてきた。同時に、パジャマに手をかけてくる。
　――ずっと、こんな平穏な生活が続くんだろうな。
　ふと、そんな考えが玲の脳裏を掠めた。大学生活は退屈なくらい単調だ。バイトも、稀にトラブルは起こるものの、基本的にはルーチン業務の繰り返し。一回り年上の恋人は、過保護なくらい甘やかしてくれる。これからもこんな平和な日々が流れていくのだろう、と玲は倉木の愛撫を受けながらぼんやりと思った。