上 下
222 / 242
第十二章 価値観は、それぞれなんです

20

しおりを挟む
 あれほど捜し求めて見つからなかった呪文が、この本に載っていたというのか。あの時、フィリッポのステッキからたまたま見つかったからいいものの……。

「あの、それほど重要な魔術書なのでしょうか?」

 コリーニが、恐る恐るといった様子で尋ねる。

「だとすれば、本当にご迷惑をおかけしました。私の方で、何かできることはありますでしょうか」
 
 事情を知らないコリーニは、おろおろしている。ルチアーノは、かぶりを振った。

「いや、必要無い。コリーニ殿、ご苦労だったな。もう下がってよい。そしてこの手紙は、預からせてくれ」
「はあ……? では、失礼いたします」

 怪訝そうにコリーニが退室すると、四人は思わず顔を見合わせていた。フィリッポが、吐き捨てる。

「まさか、ユリアーノが所持していたとは」
「回復呪文が載っていると知っていてのことでしょうか」

 ボネーラが、ルチアーノの顔を見る。ルチアーノは頷いた。

「そうであろう。奴は、フィリッポ殿宛てのベゲット殿の手紙を読み、私が禁呪にかけられていることを知っていた。それで敢えて、回復呪文が記されたこの本を隠し持つことにしたのだ。ここぞというタイミングで差し出そうと、算段を練っていたに違いない」

「二十年以上も……!」

 真純は、歯がみした。ルチアーノが、忌々しげに頷く。

「その『ここぞ』が、今だ。私が即位し、禁呪の噂が広まった今、この本を差し出せば恩を売れるとの判断だろう。はっ。あいにく、呪いは解けておるわ!」

 ルチアーノは、手紙を乱暴に叩きつけた。ボネーラが、顔をしかめる。

「どのような刑に処しましょうか。ユリアーノの罪といえば、赤子の遺体を置きにベゲット殿の家に侵入したことや、ニトリラ焼き討ちについて知りながら黙っていたことなど、小さなものばかりです。重い刑を科するのは困難かと……」

「小さくはないぞ?」

 ルチアーノは、ボネーラの言葉を遮った。顔には、意味ありげな微笑が浮かんでいる。

「ユリアーノは、を盗んだのだ。を盗んだ場合、単なる窃盗罪では無く、特別な重罪が適用される」

 ボネーラは、ははあという顔をした。フィリッポも、にやりとする。

「窃盗罪の中で最も重い刑は、終身刑でしたね」
「その通り。ご丁寧に自白の手紙まで書いてくれて、愚かなことだな。欲を出そうとして、永遠に牢獄の中だ」

 ルチアーノは、手紙をさっさと懐にしまった。チラとボネーラを見る。

「さて、話は変わるが。ボネーラ殿、例の件はどうなっている?」
「ああ……」

 ボネーラは、決まり悪そうな顔になった。

「少々、難儀しておりまして。特に、もう一人の方が。ですが近日中には、成功させられるはずです」
「頼むぞ」

 ルチアーノが、念を押す。真純は尋ねた。

「何のお話です?」
「間も無くわかる」

 ルチアーノは、答えようとしない。不審に思っていた真純だったが、ルチアーノの次の言葉に、心はパッと浮き立った。

「さて、マスミ。この後、時間は取れるか? 母の墓に参ろうと思うのだ。落ち着いたら一緒に行こうと、言っていただろう?」
「もちろんです」

 真純は、顔をほころばせて頷いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

置き去りにされたら、真実の愛が待っていました

夜乃すてら
BL
 トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。  というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。  王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。    一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。  新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。  まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。    そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?  若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

【完結】悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。~星の夢・裏~

愛早さくら
BL
君が悪役令息? 一体何を言っているのか。曰く、異世界転生したという僕の初恋の幼なじみには、僕以外の婚約者がいた。だが、彼との仲はどうやら上手くいっていないようで……ーー?! はは、上手くいくはずがないよね、だって君も彼も両方受け身志望だもの。大丈夫、僕は君が手に入るならなんでもいいよ。 本人には気取られないよう周囲に働きかけて、学園卒業後すぐに、婚約破棄されたばかりの幼なじみを何とか絡めとったのだけど、僕があまりに強引すぎたせいか、ちょっとしたすれ違いから幼なじみを殺しかけてしまう。 こんなにも君を求めているのに。僕はどうすればよかったのだろう? この世界は前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界で自分は悪役令息なのだという最愛の公爵令息を、策略を巡らせて(?)孕ませることでまんまと自分の妃にできた皇太子が事を急くあまり犯した失態とは? ・少し前まで更新していた「婚約破棄された婚約者を妹に譲ったら何故か幼なじみの皇太子に溺愛されることになったのだが。」の殿下視点の話になります。 ・これだけでも読めるように書くつもりですが、エピソード的な内容は前述の「婚約破棄され(ry」と全く同じです。 ・そちらをお読みの方は、少し違う雰囲気をお楽しみ頂けるのではと。また、あちらでは分かりにくかった裏側的なものも、こちらで少し、わかりやすくなるかもしれません。 ・男性妊娠も可能な魔力とか魔術とか魔法とかがある世界です。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。(3-7とかの数字の前。 ・ちゅーまでしか行ってなくても前戯ならR18に含みます。 ・なお、*の多くは全部ぶっ飛ばしても物語的に意味は通じるようにしていく予定です、苦手な方は全部ぶっ飛ばしてください。 ・ありがちな異世界学園悪役令嬢婚約破棄モノを全部ちゃんぽんしたBLの攻めキャラ視点のお話です。 ・執着強めなヤンデレ気味の殿下視点なので、かなり思い詰めている描写等出てくるかもしれませんが概ね全部大丈夫です。 ・そこまで心底悪い悪人なんて出てこない平和な世界で固定CP、モブレ等の痛い展開もほとんどない、頭の中お花畑、ご都合主義万歳☆なハッピーハッピー☆☆☆で、ハピエン確定のお話なので安心してお楽しみください。

真実の愛とは何ぞや?

白雪の雫
BL
ガブリエラ王国のエルグラード公爵家は天使の血を引いていると言われているからなのか、産まれてくる子供は男女問わず身体能力が優れているだけではなく魔力が高く美形が多い。 そこに目を付けた王家が第一王女にして次期女王であるローザリアの補佐役&婿として次男のエカルラートを選ぶ。 だが、自分よりも美形で全てにおいて完璧なエカルラートにコンプレックスを抱いていたローザリアは自分の生誕祭の日に婚約破棄を言い渡してしまう。 この婚約は政略的なものと割り切っていたが、我が儘で癇癪持ちの王女の子守りなどしたくなかったエカルラートは、ローザリアから言い渡された婚約破棄は渡りに船だったので素直に受け入れる。 晴れて自由の身になったエカルラートに、辺境伯の跡取りにして幼馴染みのカルディナーレが提案してきた。 「ローザリアと男爵子息に傷つけられた心を癒す名目でいいから、リヒトシュタインに遊びに来てくれ」 「お前が迷惑でないと思うのであれば・・・。こちらこそよろしく頼む」 王女から婚約破棄を言い渡された事で、これからどうすればいいか悩んでいたエカルラートはカルディナーレの話を引き受ける。 少しだけですが、性的表現が出てきます。 過激なものではないので、R-15にしています。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

処理中です...