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第十二章 価値観は、それぞれなんです
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【作者よりお礼】
先日導入されたいいね機能、さっそく使っていただきありがとうございます!
一話につき複数回押してくださっている方もいるようで、感謝しています。
また、特に力を入れて書いたエピソードのところで連動するようにいいね数が多くなっていて、共感していただいているようでとても嬉しいです。
大分エンディングに近付いてきましたが、この後も意外な展開が待ち受けていますので、よかったら最後までお付き合いいただけると幸いです!
それを聞いたフィリッポは、瞳を潤ませた。だが、それでも言い募る者がいた。
「しかしジュダ殿は、ご自分が魔術師の家系と最近知ったばかり。経験なら、これから積めば……」
「私が宮廷魔術師職に就かない理由は、もう一つございます」
ジュダは、発言者の言葉を遮った。
「就かないのではなく、就けないと申しましょうか。それは、私の実父・ヴァレリオ・ベゲットが、魔術師としての禁忌を犯したからです」
まさか、と真純は青くなった。ルチアーノが、鋭く叫ぶ。
「ジュダ!」
だがジュダは、それを無視して続けた。
「ルチアーノ陛下は、病などではありませんでした。禁呪をかけられたのです。当時パッソーニは、禁呪を解く能力が無かったため、陛下を病と偽ったのでございます。そして、その禁呪をかけたのが、私の父なのです!」
その場が、騒然となる。皆は、囁き始めた。
「確かに、あれは病とは思えなかった」
「それで、聖女が治療しても治らなかったのか。呪いなら、説明がつく……」
ジュダは、声を張り上げた。
「マスミ様は、単なる薬師ではありません。ボネーラ様が陛下の呪いを解くため呼び寄せた、回復魔術師です。そして、マスミ様、フィリッポ様のおかげで、陛下の禁呪は無事解けました。ですが、禁呪を用いた魔術師の息子である身としては、宮廷魔術師の地位になど、到底就けません!」
「ジュダさん! そうではない。ベゲット様は……」
フィリッポが立ち上がり、釈明しようとする。だがジュダは、さらに言い募った。
「今述べたのは、事実です。それゆえ私は、一時は陛下のおそばにいることすら遠慮しようかと思ったくらいです。ですが陛下は寛大にも、私がお仕えし続けることをお許しくださいました。先ほど、騎士を目指さないのかと問われましたね。それは、陛下のお慈悲の心に報いるため。私は宮廷魔術師はもちろん、他の職にも就きません。生涯、側近として、陛下にこの身を捧げます!」
一同は、蜂の巣をつついたように騒ぎ始めた。
「あのベゲット殿が?」
「まさか。禁呪など、最大の禁忌ではないか。信じられぬ……」
そこへ、ルチアーノの鋭い声が響いた。
「静かに。私から説明しよう」
皆は、ぴたりと押し黙った。一斉に、ルチアーノに注目する。
「陛下。禁呪とは、本当なのですか?」
誰かが尋ねる。ルチアーノは、沈痛の面持ちで頷いた。
「その通りだ」
フィリッポが、うなだれる。ルチアーノは、静かに語った。
「今さら隠そうとしても、隠しきれまい。今ジュダが語ったことは、真実だ。ベゲット殿とその息子であるジュダを守るため、私はパッソーニが仕立てた嘘に従い、『病』と偽り続けた。その点は、深く詫びる」
一同が、息を呑む。ルチアーノは、「だが」と続けた。
「ベゲット殿の名誉のため、補足させて欲しい。なぜ彼が、禁呪を用いるに至ったかという経緯だ。皆、ニトリラの大火を覚えているな? エリザベッタ王妃陛下の発案で、パッソーニが実行したあの事件だ」
あの件は、皆記憶に新しい。居合わせた者たちは、うんうんと頷いた。
「己とニトリラに迫った危険を察知したベゲット殿は、焼き討ちを阻止しようとした。そんな中、協力すると申し出た人間がいた。禁呪を用いることを、見返りに。当時私は、母の腹に宿った頃だった。国王の第二夫人・テレザが子を産むことを恐れたその人物は、テレザの子に禁呪をかけることと引き換えに、ニトリラ焼き討ちを阻止すると申し出たのだ」
皆、顔を見合わせ合った。ルチアーノはあえてその名を伏せたが、多くの者は察知したらしい。「王妃陛下か」という囁きが聞こえた。
「ですが、結局ニトリラ焼き討ちは実行されたではありませんか?」
誰かが発言する。ルチアーノは、その人物をじろりとにらんだ。
「その通り。協力を申し出た人間は、ベゲット殿に禁呪を使わせるだけ使わせて、約束を守らなかった。気の毒なベゲット殿は、魔術師としての矜持に反して禁忌を犯した上、命を落としてしまったのだ。故郷ニトリラを守るという、崇高な信念ゆえに!」
最後を強調しながら、ルチアーノが叫ぶ。皆は、当惑の表情を浮かべた。ルチアーノの話を信じてよいのか、ベゲットを許すべきなのか迷っている、そんな気配だ。
その時、フィリッポが何やら呪文を唱えた。こんな時に何をするのだろうと訝ったが、理由はすぐにわかった。フィリッポの手に、不意に一枚の紙が出現したからだ。
「転送魔法。他の魔術師に使えて、私が使えないなんて我慢なりませんからね。早速、習得しました」
冗談めかしてそう言うと、フィリッポはその紙を手に、立ち上がった。皆に提示する。
「こちらは、ベゲット様が私に宛てて書かれた遺書です。ここには、『テレザ妃の子はパッソーニの子』と書かれています」
一同は、目を見張った。
「当然、嘘です。パッソーニは宦官なのですから。ですが当時、その事実は知られていませんでした。ベゲット様は、信じてしまわれたのです。その嘘を吹き込み、ルチアーノ陛下に禁呪をかけるよう、彼に迫った人物……。皆様、もうおわかりですよね?」
皆、信じられないといった表情をしている。「第二夫人の子を、そこまでして……」「魔女のような女だ」という囁きも聞こえた。ルチアーノが、後を引き取る。
「エリザベッタ王妃陛下だ。死の直前、はっきりと自白された。だが、私はその事実を公にしなかった。母国でもアルマンティリアでもご苦労なさった彼女を慮り、名誉ある死を遂げた王妃として、締めくくって差し上げたかったのだ。だが、ベゲット殿が無責任に誹られるとなれば、それは我慢できぬ。だから、今公表したのだ」
そこでルチアーノは、一同を見回した。
「王妃陛下の自白は、私、ジュダ、フィリッポ殿、マスミ殿の四人がはっきりと耳にした。それだけでは信用できぬと言うのなら、もう一人の証人を呼ぼう。セバスティアーノ国王だ。その時彼は、まだ生きてこの話を聞いていた。やれと言うなら、蘇生魔法で死んだ彼を復活させ、語らせる。どうだ、その必要はあるか!」
真純は、ドキリとした。フィリッポも、やはりと言いたげに目を伏せる。
(ルチアーノ陛下は、死者を蘇生させられる……!)
一方、居合わせた者たちは、ルチアーノの気迫に恐れおののいたのか、震え上がった。一斉に、ふるふるとかぶりを振る。
「いえ、そこまでしていただかなくとも結構です」
「陛下を、お三方をお信じ申し上げます」
「その通り。ベゲット殿は、我が国が誇る魔術師だ!」
皆、口々に叫んだ。ジュダは安堵の表情を浮かべ、フィリッポは目元を拭った。ルチアーノも、ようやく穏やかな顔つきになる。
「では、本題の宮廷魔術師職の件に戻ろう。ジュダは正直な性格ゆえ、自ら告白したが、今の話からわかる通り、ベゲット家の名は汚れたとは言えない。だが本人の希望と、そしてフィリッポ殿の実力を鑑み、宮廷魔術師はフィリッポ殿に務めていただきたい。どうだ、これ以上異論のある者は?」
一斉に、声が上がった。
「ございませぬ」
「フィリッポ殿に、期待しております!」
フィリッポは席を立つと、一同にうやうやしく一礼した。拍手喝采が巻き起こる。真純は、感慨深い思いでその光景を見つめたのだった。
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それを聞いたフィリッポは、瞳を潤ませた。だが、それでも言い募る者がいた。
「しかしジュダ殿は、ご自分が魔術師の家系と最近知ったばかり。経験なら、これから積めば……」
「私が宮廷魔術師職に就かない理由は、もう一つございます」
ジュダは、発言者の言葉を遮った。
「就かないのではなく、就けないと申しましょうか。それは、私の実父・ヴァレリオ・ベゲットが、魔術師としての禁忌を犯したからです」
まさか、と真純は青くなった。ルチアーノが、鋭く叫ぶ。
「ジュダ!」
だがジュダは、それを無視して続けた。
「ルチアーノ陛下は、病などではありませんでした。禁呪をかけられたのです。当時パッソーニは、禁呪を解く能力が無かったため、陛下を病と偽ったのでございます。そして、その禁呪をかけたのが、私の父なのです!」
その場が、騒然となる。皆は、囁き始めた。
「確かに、あれは病とは思えなかった」
「それで、聖女が治療しても治らなかったのか。呪いなら、説明がつく……」
ジュダは、声を張り上げた。
「マスミ様は、単なる薬師ではありません。ボネーラ様が陛下の呪いを解くため呼び寄せた、回復魔術師です。そして、マスミ様、フィリッポ様のおかげで、陛下の禁呪は無事解けました。ですが、禁呪を用いた魔術師の息子である身としては、宮廷魔術師の地位になど、到底就けません!」
「ジュダさん! そうではない。ベゲット様は……」
フィリッポが立ち上がり、釈明しようとする。だがジュダは、さらに言い募った。
「今述べたのは、事実です。それゆえ私は、一時は陛下のおそばにいることすら遠慮しようかと思ったくらいです。ですが陛下は寛大にも、私がお仕えし続けることをお許しくださいました。先ほど、騎士を目指さないのかと問われましたね。それは、陛下のお慈悲の心に報いるため。私は宮廷魔術師はもちろん、他の職にも就きません。生涯、側近として、陛下にこの身を捧げます!」
一同は、蜂の巣をつついたように騒ぎ始めた。
「あのベゲット殿が?」
「まさか。禁呪など、最大の禁忌ではないか。信じられぬ……」
そこへ、ルチアーノの鋭い声が響いた。
「静かに。私から説明しよう」
皆は、ぴたりと押し黙った。一斉に、ルチアーノに注目する。
「陛下。禁呪とは、本当なのですか?」
誰かが尋ねる。ルチアーノは、沈痛の面持ちで頷いた。
「その通りだ」
フィリッポが、うなだれる。ルチアーノは、静かに語った。
「今さら隠そうとしても、隠しきれまい。今ジュダが語ったことは、真実だ。ベゲット殿とその息子であるジュダを守るため、私はパッソーニが仕立てた嘘に従い、『病』と偽り続けた。その点は、深く詫びる」
一同が、息を呑む。ルチアーノは、「だが」と続けた。
「ベゲット殿の名誉のため、補足させて欲しい。なぜ彼が、禁呪を用いるに至ったかという経緯だ。皆、ニトリラの大火を覚えているな? エリザベッタ王妃陛下の発案で、パッソーニが実行したあの事件だ」
あの件は、皆記憶に新しい。居合わせた者たちは、うんうんと頷いた。
「己とニトリラに迫った危険を察知したベゲット殿は、焼き討ちを阻止しようとした。そんな中、協力すると申し出た人間がいた。禁呪を用いることを、見返りに。当時私は、母の腹に宿った頃だった。国王の第二夫人・テレザが子を産むことを恐れたその人物は、テレザの子に禁呪をかけることと引き換えに、ニトリラ焼き討ちを阻止すると申し出たのだ」
皆、顔を見合わせ合った。ルチアーノはあえてその名を伏せたが、多くの者は察知したらしい。「王妃陛下か」という囁きが聞こえた。
「ですが、結局ニトリラ焼き討ちは実行されたではありませんか?」
誰かが発言する。ルチアーノは、その人物をじろりとにらんだ。
「その通り。協力を申し出た人間は、ベゲット殿に禁呪を使わせるだけ使わせて、約束を守らなかった。気の毒なベゲット殿は、魔術師としての矜持に反して禁忌を犯した上、命を落としてしまったのだ。故郷ニトリラを守るという、崇高な信念ゆえに!」
最後を強調しながら、ルチアーノが叫ぶ。皆は、当惑の表情を浮かべた。ルチアーノの話を信じてよいのか、ベゲットを許すべきなのか迷っている、そんな気配だ。
その時、フィリッポが何やら呪文を唱えた。こんな時に何をするのだろうと訝ったが、理由はすぐにわかった。フィリッポの手に、不意に一枚の紙が出現したからだ。
「転送魔法。他の魔術師に使えて、私が使えないなんて我慢なりませんからね。早速、習得しました」
冗談めかしてそう言うと、フィリッポはその紙を手に、立ち上がった。皆に提示する。
「こちらは、ベゲット様が私に宛てて書かれた遺書です。ここには、『テレザ妃の子はパッソーニの子』と書かれています」
一同は、目を見張った。
「当然、嘘です。パッソーニは宦官なのですから。ですが当時、その事実は知られていませんでした。ベゲット様は、信じてしまわれたのです。その嘘を吹き込み、ルチアーノ陛下に禁呪をかけるよう、彼に迫った人物……。皆様、もうおわかりですよね?」
皆、信じられないといった表情をしている。「第二夫人の子を、そこまでして……」「魔女のような女だ」という囁きも聞こえた。ルチアーノが、後を引き取る。
「エリザベッタ王妃陛下だ。死の直前、はっきりと自白された。だが、私はその事実を公にしなかった。母国でもアルマンティリアでもご苦労なさった彼女を慮り、名誉ある死を遂げた王妃として、締めくくって差し上げたかったのだ。だが、ベゲット殿が無責任に誹られるとなれば、それは我慢できぬ。だから、今公表したのだ」
そこでルチアーノは、一同を見回した。
「王妃陛下の自白は、私、ジュダ、フィリッポ殿、マスミ殿の四人がはっきりと耳にした。それだけでは信用できぬと言うのなら、もう一人の証人を呼ぼう。セバスティアーノ国王だ。その時彼は、まだ生きてこの話を聞いていた。やれと言うなら、蘇生魔法で死んだ彼を復活させ、語らせる。どうだ、その必要はあるか!」
真純は、ドキリとした。フィリッポも、やはりと言いたげに目を伏せる。
(ルチアーノ陛下は、死者を蘇生させられる……!)
一方、居合わせた者たちは、ルチアーノの気迫に恐れおののいたのか、震え上がった。一斉に、ふるふるとかぶりを振る。
「いえ、そこまでしていただかなくとも結構です」
「陛下を、お三方をお信じ申し上げます」
「その通り。ベゲット殿は、我が国が誇る魔術師だ!」
皆、口々に叫んだ。ジュダは安堵の表情を浮かべ、フィリッポは目元を拭った。ルチアーノも、ようやく穏やかな顔つきになる。
「では、本題の宮廷魔術師職の件に戻ろう。ジュダは正直な性格ゆえ、自ら告白したが、今の話からわかる通り、ベゲット家の名は汚れたとは言えない。だが本人の希望と、そしてフィリッポ殿の実力を鑑み、宮廷魔術師はフィリッポ殿に務めていただきたい。どうだ、これ以上異論のある者は?」
一斉に、声が上がった。
「ございませぬ」
「フィリッポ殿に、期待しております!」
フィリッポは席を立つと、一同にうやうやしく一礼した。拍手喝采が巻き起こる。真純は、感慨深い思いでその光景を見つめたのだった。
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