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第十二章 価値観は、それぞれなんです

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 その後ルチアーノの主導で、同盟諸国との協議は円満に決着した。そして、ホーセンランドでセバスティアーノの代理を務めていた弟のヴァレンティ-ノは、予想通り六カ国に屈し、分割統治案をあっさり受け入れた。ルチアーノは現在、ホーセンランドの管理と、クシュニア・ギルリッツェの復興を、並行して進めている。

  そんな中、前国王・ミケーレ二世と王妃・エリザベッタの葬儀は、合同国葬という形式で、厳かに執り行われた。当日は天候も良く、王族全員と高位の貴族、また地方領主らは王家の墓地に集まり、二人を偲んだ。

「お二人とも、穏やかなお顔でしたなあ」

 ボネーラは、そんなことを言った。

「そうですね」

 真純も同意した。王妃もまた、安らかな死に顔だったのだ。ホーセンランド国王を自らの手で討ち取ることができて、満足だったに違いない。真純は、そう思っていた。 

「それにしても、国王陛下と、ほぼ時を同じくして亡くなるとは。奇遇といいますか……」
「あの方は、ミケーレ二世陛下の王妃であられたのだよ。最後まで」

 ルチアーノが、力強く語る。ボネーラは、しんみりと頷いた。

「仰る通りですな……」

 そんなボネーラをしみじみと見つめていた真純だったが、ふと違和感を覚えた。一瞬の後、真純はあっと声を上げた。

「ボネーラさん! お髭が……。口ひげが……」

 どうもボネーラの顔がいつもと違うと思ったら、トレードマークとも言うべき口ひげが、忽然と姿を消していたのだ。真純は、ぎょっとした。

「もしかして、全部抜け落ちたんですか!? あの、僕が戦地に赴くとか、駄々をこねたから……」
 
  あの時から、彼の口ひげは薄くなりかかっていた。自分がストレスを与えたせいかと焦った真純だったが、ボネーラは苦笑した。
  
「違いますよ。自分で剃りました」

 ほう、と真純は安堵のため息をついた。ボネーラが説明する。

「元々、口ひげをたくわえるようになったのは、落ち着いて見られたいという思惑からでした。幸運にも若くして宰相に取り立てていただきましたが、それゆえに頼りないと思われるのも嫌でしてね」
 
 なるほど、と真純は納得した。

「いいと思いますよ。お髭が無い方が、素敵です」

 ルチアーノも賛同した。

「私もそう思う。今のボネーラ殿の年齢を考えれば、若く見られて困ることも無いだろうし。第一、そなたを頼りないと考える者は、この国にはおらぬ」
「ありがとうございます」

 ボネーラが、恐縮する。真純は、密かに思った。

(頼もしいと思われたい相手が、もういなくなったから、だろうな……)

 そこへ、グレゴリオが駆けて来た。

「陛下、マスミ様、坊ちゃま。そろそろ、王宮へお戻りいただきませんと」

 この後王宮では、宮廷内の人事を決める審議が行われるのだ。ルチアーノは、軽く頷いた。

「わかった。でも、少しだけ待ってくれ。せっかく来たのだから、他の方々の墓にも参りたい」
「ご一緒してもいいですか?」

 真純は、尋ねた。

「もちろんだ」

 ルチアーノが訪れたのは、クラウディオ・マヌエラ夫妻の墓だった。馬車を待たせて、しばし二人で手を合わせる。他の墓にも参るのかと思ったが、ルチアーノはそこを離れると、馬車へ戻ろうとする。真純は不思議に思った。

「お母様のお墓に寄られなくてもいいのですか?」

 するとルチアーノは、思いがけないことを言った。

「母の墓は、王家の墓地には無い」
「それって……」

 ルチアーノは頷いた。
 
「そう、王妃陛下が拒まれたのだ。それゆえ母の墓は、実家の方にある」
「では、移されてはどうです? もう、反対する方もいないことですし」
 
 だがルチアーノは、かぶりを振った。

「このままでよい」
「でも……」

 ルチアーノは、真純に微笑んだ。
 
「王妃陛下も仰った通り、ミケーレ二世陛下の生前の愛情は、母が独占し続けた。だから陛下も、死後は王妃陛下と過ごされるとよかろう」
 
  何だか釈然としない気もしたが、ルチアーノの決意は固いようだ。真純は、黙って頷いた。

「だが、墓には参りたい。落ち着いたら、共に行こう。母に、マスミを紹介したいのだ」
「はい、もちろんです」

 真純は、大きく頷いていた。先日見た肖像画を思い出して、何だか緊張する。ルチアーノの母は、自分を認めてくれるだろうか。その一方で、嬉しい気持ちも抑えきれなかった。
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