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第十一章 最強魔法対決!

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 ちょうど馬が二頭いるので、四人は、ジュダ・フィリッポ、トッティ・真純の二組に分かれて分乗した。向かう先は、ギルリッツェ領主の城だそうだ。最初は、そこに籠城して中から応戦していたが、セバスティアーノが魔法を使い出したため、今は城から出て、その前で戦っているという。

「ルチアーノ殿下は、近衛騎士団の皆様と、我が兄が率いるギルリッツェ騎士団と共に応戦しておられます」

 川に沿って馬を走らせながら、トッティはそう説明した。

「ご領主はどちらに?」

 ふと疑問を覚えて、真純は質問した。トッティは領主の次男だと言っていた。息子たちが奮闘しているというのに、父親はどうしたのだろうと思ったのだ。すると、トッティはため息をついた。

「恥ずかしながら、城の一室に閉じこもってしまいました。占星術師を呼んで、ひたすらこの戦いの結果を占わせています。そんな場合ではないというのに」

 そういえばギルリッツェ領主といえば、パッソーニを引き立てた人物だったな、と真純は思い出した。根っからの占い好きだったのか。

(それにしても、この非常時に、占いに頼るなんて……)
  
「どこかの国王陛下と似てらっしゃいますな」

 後ろを走るジュダの馬に乗っていたフィリッポが、ぼそりと呟く。トッティは、ぎょっとしたように振り向いた。

「は!? いや、国王陛下と同列に語られるなど、恐れ多い……。あっ、いや、国王陛下が占いに頼りきりと申したいのではなく……」
「気にしないでください。フィリッポさんは、ああいう人なんで」

 真純のフォローに納得したのかしていないのか、トッティは怪訝そうな顔をしつつも頷いた。一方、背後からはジュダのうめき声が聞こえてくる。

「あああ、呪文、長い……。やっぱり、覚えないとダメか? 剣の腕なら、誰にも負けない自信があるんだが。そっちでお役に立つってのは?」
「実践のいい機会なんだから、頑張って。短縮詠唱だと、小さい効果しか期待できないんですよ。あなたの頭脳があれば、呪文くらい覚えられるでしょう」

 鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な声音で、フィリッポが励ます。ジュダは、チッと舌打ちした。

「あんたが、師匠の息子に教えてみたいだけじゃないのか」
「それ以上口答えしたら、あなたの赤子時代のあれこれを、際限なく語りますけど」

 フィリッポのその一言に、ジュダはぴたりと押し黙ったのだった。


 やがて、ギルリッツェ領主城が見えて来た。真純は、眉をひそめたくなった。城に近付くにつれ、川の水が赤色に染まってきたのだ。弓矢や剣が浮かんでいるところを見ると、戦死した兵の遺体が放り込まれたものと思われる。

「また犠牲が増えたようです」

 肩を落とすトッティに、真純は話しかけた。
 
「僕、薬を持って来たので、よかったら負傷者に使ってください」
「おお、本当ですか? 怪我や火傷に効く薬が?」

 トッティは、嬉しげな表情で振り返った。
 
「はい。火魔法による火傷のことは、さっき聞いたばかりなので、直接効くものは無いですけど。でも、鎮痛効果のある薬もあるので、少し和らぐんじゃないでしょうか」

 一応水の魔術師である身としては、この血まみれの川を何とかしたいところだが、今はそれどころではないな、と真純は思った。まずは、これ以上犠牲者を出さないこと、そして負傷者を手当てすることだ。

「マスミ様、助かります。感謝申し上げ……」

 礼を述べている途中で、トッティはあっと声を上げた。真純も、ハッとした。城の前で、何やら竜巻が発生しているではないか。

「セバスティアーノ国王が、また魔法を使ったようです。急ぎましょう!」

 トッティのかけ声と共に、二頭の馬は、スピードを速めた。やがてたどり着いたギルリッツェ領主城は、防御用と思われる高い柵で囲まれていた。蔦が絡みついたその柵の前には、武装したルチアーノと近衛騎士団、そしてギルリッツェ騎士団であろう若者たちが、警戒の色をみなぎらせて勢ぞろいしていた。

 そして彼らと相対するのは、見慣れない軍服に身を包んだ数十名の男たちだった。ホーセンランドの兵士たちだろう。その中央では、ブロンドの男が何やら呪文を唱えていた。彼だけが武装せず、なぜか黒いローブをまとっている。ホーセンランド現国王にして、魔術師でもあるセバスティアーノに違いなかった。

「あの服装……。完全に、武力ではなく魔法で攻撃するつもりですか」

 フィリッポが、歯ぎしりする。トッティは、そんなフィリッポを焦り顔で見やった。

「ええ、早く魔法の発動を! セバスティアーノ国王は、高速の風を操り、相手を切りつけます。クシュニアでの負傷のほとんどは、それが原因だったとか!」

 トッティが言い終えるか終えないうちに、セバスティアーノが片手を上げる。次の瞬間、すさまじい勢いの風が、アルマンティリア勢に襲いかかった。
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